研究課題/領域番号 |
26380021
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西村 安博 同志社大学, 法学部, 教授 (90274414)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 裁許状 / 訴陳状 / 召文違背 / 和与 / 私和与 |
研究実績の概要 |
(1)本年度においても昨年度に引き続き、鎌倉幕府の裁判(所務沙汰を主とする)において発給された「判決文書」の中で、関東裁許状に見える「召文違背」をめぐる裁判例に注目し、争点とされた「召文違背」をはじめ、場合によっては他の関連する複数の争点についても訴訟当事者の主張内容および各争点に対応する判決内容の抽出作業を試みた。その成果の一部として、論文「鎌倉幕府の裁判における召文違背について─関東裁許状を主とする関係史料の整理―」(『同志社法学』第69巻2号)を公表した。そして、この作業を一つのモデルとして引き続き、六波羅・鎮西の裁許状にみえる裁判例の分析のための準備作業を進めている。 公表論文では、幕府は宝治元年(1247)の追加法第260条により御成敗式目第35条で規定する「召文違背」に関する基本方針を大きく変更したとする石井良助説およびこれを前提とする「召文違背之咎」をめぐる通説的理解(植田信廣論文など)は修正が必要であることを確認した。なお、当該論文では「秋山喜十郎氏所蔵文書」元亨元年(1321)6月27日附および「朽木文書」正慶元年(1332)9月23日附の裁許状を見落としており、それぞれ19-aおよび33-aとして取りあげるべきであること、加えて、269頁の※17の最下段の左端に記す「○ 然則、~」を「☆ 然則、~」に訂正すべきことを附記しておく。 (2)その一方で、「私和与」をめぐる訴訟当事者の主張内容および「私和与」に関する裁判所の認識をはじめ、その中に見出される裁判規範の一端を明らかにするために必要とされる関係史料の基礎的な整理を試みた。私和与に関する実質的な検討作業は今後の課題として残されることになったが、新たな発見として「高野山御影堂文書」正和3年(1314)10月13日附富部信連和与状案が私和与の内容を示す稀有な文書である可能性が高いことを指摘するにいたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を継続している和与・私和与の問題に関して取り組む中で、とりわけ「私和与」に関する訴訟当事者および裁判所の認識などを検討するための準備として上記の作業に追われることになり、「召文違背」の裁判事例に関して分析対象を移行している六波羅および鎮西裁許状に関する作業の進捗が予想以上に遅延することになった。とりわけ六波羅に関しては所務沙汰において見出されるおおよその史料データを得てはいるものの、その一方では参照すべき検断・検断沙汰に関わる訴訟事案も頻出することから、個々の紛争事案に関する学説上の理解や関連史料の吟味に予想以上の時間を費やすことになっている。
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今後の研究の推進方策 |
六波羅および鎮西の裁許状および関連する訴陳状等に関する総体的な把握が早期に実現できるよう目指していくとともに、必要とされる学説史の理解および史料の吟味を進めていく。また、関東裁許状に関する分析作業から得られたところの、裁判所が一つの事案における判決(判断内容)を構成するにあたって、何を証拠として優先的に認定していたのか、そして、その証拠からはいかなる事実が導かれることになり、さらにはその事実に対していかなる裁判規範が適用されるにいたったのか、という分析視角から得られる理解の可能性を探っていくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度には史料調査のために数回の出張を予定していたが、諸事情によりやむを得ず取り止めることになった。次年度においてあらためて計画を予定したいと考えている。また、史料の検討作業の進捗状況に合わせて刊行史料集等の図書の購入を予定していたが、作業の遅延により次年度において購入を予定することとする。
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