(1)本年度においても昨年度に引き続いて、鎌倉幕府の裁判、とりわけ六波羅における判決文書(裁許状)を主たる対象として、「召文違背」が争点の一つとされた場合を中心にそれに対する幕府裁判所の対応状況に関する分析を行うことを目標に作業を進めることになったが、下記のような理由で作業は中途で止まらざるを得なかった。 (2)検討対象となる六波羅裁許状の文書点数は必ずしも多くないが、鎌倉時代後期において顕著となる、いわゆる悪党の活動に向けられた幕府裁判所の対応は検断および検断沙汰として把握すべき対象として注目される。その中では、検断および検断沙汰をめぐる手続の中で発給される召文の実態をどのように理解すべきか、あるいは召文に対する違背行為はどのように認識されているのか、などの問題は、悪党をめぐるこのような裁判手続が半ば所務沙汰による手続とも交わっていることから、裁判手続の実態そのものを正確に理解することが必ずしも容易ではないという特徴を有している。悪党をめぐる問題として具体的には、大和国平野殿荘をめぐる訴訟が検討に際して大きな比重を占めており、これまでの同荘に関する分厚い研究史の中でも坂井孝一「大和国平野殿荘の悪党―下司平清重とその一類―」などをはじめ、検断に関する最新研究である西田友弘「法諺「訴え無くば、検断無し」の再検討」などの成果にもあらためて学ぶ必要を感じている。 (3)かような状況の中で、『鎌倉遺文』所収史料を基準に対象史料に関する基礎的なデータをおおよそ把握することは出来ているが、検討作業が待たれる鎮西裁許状およびこれに関連する訴陳状に関するデータの蓄積も図っていく必要があることを痛感している。関東・六波羅・鎮西のそれぞれでデータを完結させるのではなくて、データを相対化していく作業が必要であると考えるからである。主たる研究課題の成果は次年度以降に公表することを目指していきたい。
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