平成27年度の研究は、主に4点に分けることができる。第一に、1950年代にドイツ連邦共和国の新しい憲法構造がその輪郭を明瞭にし始め、とりわけ連邦憲法裁判所が特に基本権判例を中心に新たな法理を発展させる中、ここでの憲法秩序の変動が既存のドイツの国家理解・憲法理解との関係でいかなる意味を持つものとして学説によって受け止められたかを、幾人かの論者に即して検討した。その成果は、ワイマール共和国期の学問的発展の中で中心的地位を占めた「政治」概念の戦後の遍歴の一側面に照準を合わせる形で、論文「『政治』の行方―戦後憲法学に対する一視角」(岡田信弘、笹田栄司、長谷部恭男(編)『高見勝利先生古稀記念 憲法の基底と憲法論』(信山社、2015年))として取りまとめた。第二に、戦後の各国の憲法発展の違いがその国の憲法理解や憲法学の学問的あり方の違いといかなる相互規定的関係にあるかを比較によって究明する作業の一環として、ドイツと日本の戦後憲法学の比較研究を進め、特に「憲法発展」という観念との関係という切り口から、研究報告「Das Konzept "Verfassungsentwicklung" ― Aus japanischer Sicht」として学会報告を行った(2015年9月14日第1回日独憲法対話「憲法の発展―憲法の解釈・変遷・改正」(慶應大学))。第三に、独日における戦後の民主政の受容と国家理解の変容を更にフランスとの比較という視角から照射するために、フランス・パリ第2大学ミシェル・ヴィレイ研究所において研究を遂行した。第四に、以上の研究成果を大きく反映させる形で、書き下ろし論文3本の執筆と、過去10年間に公表した論文の修正作業を進めた。これらは、2016年度中に単行本として取りまとめられ公刊される予定である(『現代憲法学の位相―国家論・デモクラシー・立憲主義』(岩波書店))。
|