本年度は、ここまでの研究成果を取りまとめ公表すると共に、本研究の成果を更に深化させ発展させるための作業に取り組んだ。前者としては、著書『現代憲法学の位相―国家論・デモクラシー・立憲主義』(岩波書店)を刊行することができた。これは自分の過去10年強にわたるドイツ憲法学と日本との比較研究の成果をまとめたものであり、本研究が対象とする戦後期ドイツ連邦共和国における憲法理解の転換についての研究成果も、この中に盛り込まれている。後者としては、フランス・パリ第Ⅱ大学ミシェル・ヴィレイ研究所に研究滞在し、ドイツ憲法とフランス憲法との比較研究に従事した。ここでは第一に、立憲君主政期ドイツで発達した公法学説の遺産に対していかに対決したか、という見地から戦後ドイツにおける憲法論と第3共和政期フランスの議論を照らし合わせることで、両国の知的伝統やデモクラシー理解の特質が浮かび上がるのではないか、との作業仮説に従い、ドイツ公法学を強く意識した当時の論者を中心に、彼らのテクストや研究文献に取り組み、またドイツ憲法学に造詣の深いフランスの論者からも研究上の助言を受けた。第二に、戦後ドイツと戦後フランスとの憲法理解の比較に取り組んだ。法に対する政治の優位という特質を比較的強く示し、憲法も道具的に理解する傾向をしばしば示すフランスとの対比を通して、戦後ドイツにおける憲法の規範性の発展とここで生まれた新たな立憲国家の特質が、より明瞭に浮かび上がるように思われる。これらの研究主題に関する現時点での自分の見方は、まだ未熟な段階ながら「ドイツから見たフランス憲法―ひとつの試論」との題で執筆し、公表した(辻村みよ子(編集代表)山元一、只野雅人、新井誠(編)『講座 政治・社会の変動と憲法―フランス憲法からの展望 第Ⅰ巻 政治変動と立憲主義の展開』(信山社、2017年)157-182頁)。
|