平成28年度は本研究の最終年度(第三年度)にあたり、過去2年の研究成果も含めて、研究成果を社会に問うことを念頭に研究活動を継続した。 平成28年2月頃から欧州の新聞社ウェブなどで「Panama Papers(パナマ文書)」と呼ばれる報道が散見されるようになった。また、日本でもその直後に新聞社やテレビニュースなどで報道されるようになった。その内容は、要は、パナマの法律事務所から依頼人等に関する文書データが漏洩し、それを入手した欧州の新聞社などの分析で、主として欧州、アジアの富裕層や企業、政治家、犯罪組織などがパナマや英領ケイマン諸島などいわゆるタックス・ヘイブンを利用して節税やマネー・ロンダリングを仕組んでいる、というものであった。そのような事実関係自体は、国際租税法の領域においては古くから知られていることではあるが、具体的納税者名などが報道されることで、政治経済的に大きなインパクトを与えることになった。 本研究では、OECDのBEPSプロジェクトの契機となった英国での米国系企業の極端な軽い租税負担の報道以降の欧州と米国の動きを、平成28年秋に米国大統領に選出されたトランプ氏や連邦議会下院共和党の税制改正案も含めて整理し、BEPS問題は実は、米国と欧州の(DISCを契機とする)古くからある税収配分論争に過ぎないのではないか、との問題意識に達することになった。これらの点は、国税庁税務大学校での職員研修講義において活用し行政実務家の視野の拡大に活用したり、経済産業のヒアリングに応じて研究成果の内容を説明したのみならず、弁護士、会計士や税理士等の税務実務家の研修会においても言及し、研究成果を積極的に社会還元した。 なお、トランプ大統領の税制改革案や下院共和党税制改正案は平成28年度中には公表されなかったため、本研究の延長として、平成29年度以降も実質的に研究を継続することにした。
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