研究課題/領域番号 |
26380032
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
仲野 武志 京都大学, 公共政策大学院, 教授 (50292818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 行政法上の不可分利益 / 国家賠償法 |
研究実績の概要 |
平成29年度の前半は、民法債権法の改正が行政法上の不可分利益の保護の在り方に及ぼす影響についての分析を行った。行政法の世界では、一定のまとまりを有さなくとも保護される利益と一定のまとまりをもって初めて保護される利益があり、前者は民法にいう債権と同じ主観的権利であるのに対し、後者は民法ではほとんど例をみない利益である。唯一の例外として、不法行為法上保護される利益には、主観的権利でなく不可分利益でもよいという判例が存在するところである(いわゆる国立マンション事件民事訴訟最高裁判決)。下級審裁判例では、主観的権利が多数集合すると、より強度の効果を認めることができるとするものもある。いわゆる大飯原発訴訟の大津地裁判決がこれに当たる。しかしながら、これは主観的権利と不可分利益の差異を看過したものであり、被告の保護及び代表制原理との抵触という観点から、我が法制の予定するところではないと解される。 平成29年度の後半は、民法債権法の改正が国家賠償法1条1項にいう違法性の解釈に対して及ぼす影響についての分析を行った。この概念は、多数説によると、国家機関の行為の根拠法令違反であるとされている。しかしながら、この見解は最高裁の受け容れるところとはなっていない。このような判例と多数説との齟齬の原因は、不法行為法が国家行為に課された規範でなく人に課された規範であるとする判例の基本的な思想に由来するものと考えることができる。その上で、取消訴訟と関連付けられる部分については、行政法固有の解釈を成立させる余地があることを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、長らく国会での審議が進まなかった民法の一部を改正する法律案がようやく可決成立したため、その条文のテクストが確定することとなった。同年度は、これを前提として順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に可決成立して確定した改正債権法の条文を元にして、引き続き、研究計画の遂行を進めてゆく予定である。具体的には、本年度前半に、行政上の計画論に対する民法債権法改正の影響を検討する。宜野座村訴訟のように、民法か国家賠償かいずれを適用したのか明確にしないまま、行政上の計画について判断した最高裁判例があることからも分かるとおり、各種の立法例から代表的なものを選びながら、行政上の計画について分析をしてゆきたい。また、本年度後半は、公権力の行使に当たる事実上の行為に対する債権法改正の影響を分析してゆきたい。厚木基地民事訴訟と行政訴訟の対比を手掛かりとする予定である。
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