本研究では、行政法総論及び行政法各論に対して債権法改正が及ぼす影響を評価した上、それが行政法理論体系にどのような変容を迫るものかについて考察した。おおよその結論としては、債権法改正が行政法理論に対して及ぼす影響は、どちらかというと各論を中心とした限定的な物にとどまるということが判明した。具体的には、例えば、文化財保護法の出品制度、遺跡の不時発掘等では、債権法改正前と比べて、私人の行為の態様について行政法解釈においてもより詳細に検討することが必要となったと考えられる。また、行政法と民事法のエンフォースメントの協働という観点からは、近時の原発訴訟に関する一部の裁判例に行政法上の利益と私法上の権利の原理的な相違を看過しているといわざるをえないものがあるところであり、これらについては、行政法学の視角から建設的な批判を加えるべきであろう。もっとも、エンフォースメントの協働という観点は、いまだ必ずしも十分に精緻に理論化されているとはいいがたいため、この点を一層明確化することが今後の課題である。このように、行政法上の利益を私法上の権利とのアナロギーで理解することは、原告適格の不当な制限的解釈にもつながるという点でも、避けるべきである。さらに、土地区画整理のような集団的権利処理は、民法及び民事訴訟法による紛争解決でなく、土地区画整理法の手続に即応した抗告訴訟制度によってのみ実効的に解決することができる。加えて、取消訴訟等の対象という点では、例えば弁済供託の効果が債権法の改正により債権の消滅であることが明示されたため、供託官による取戻請求の却下は、処分でないが処分とみなされていると理解する学説に実証的な根拠が与えられたということができよう。
|