前年度に引き続き、授権法律(一定事項の規律を命令に委任する法律)が満たすべき規律密度に関して、日本とドイツにおける学説・判例の比較分析を進めた。 ドイツの憲法(ドイツ連邦共和国基本法)には、法規命令に対する授権を明示的に根拠づける規定が置かれているところ(80条1項)、それによれば、授権法律は当該授権の内容・目的・および程度を規定しなければならないという(明確性の要求)。他方、ドイツの公法学説は、より包括的な「法律の留保」原則の一環として、重要事項にかかる議会制定法の自己規律義務を唱えてきた(本質性理論)。こうした〈本質性理論に基づく自己規律義務〉と〈基本法80条1項に基づく明確性の要求〉とは相互にぴたり重なり合うのか、それとも後者は法規命令の授権に特有の要求と解されるべきなのか。ドイツにおける諸学説の理解は必ずしも一枚岩とはいえないように思われ、それら個々の学説を細かく分析することが、本年度の第一次的な課題となった。 上述の明確性の要求については、日本の公法学説も等しく追求してきたと考えられる。もっとも、異論の余地なく肯定されてきたのは包括的な授権(いわゆる白紙委任)の禁止に留まるほか、個別具体的な行政行為を根拠づける場合と法規命令の制定を授権する場合のそれぞれにおいて、そうした法律の規律密度に対する要求が異なりうるとの発想はほとんど見られない。 かかる比較研究の成果については、目下公表の準備を進めており、本年6月末日には脱稿の予定である。
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