この研究では、両国間で珍しくほぼ同時期に制度化された情報公開制度につき、行政法学の見地より全面的に比較検討を行っている。そこから浮かび上がってきたのは、今日では、情報公開制度が、日本においてもまた中国においてもいわゆる「権利の濫用」にぶつかっているという現実である(業務妨害や嫌がらせと疑われる大量の資料を請求する大量開示請求、特定人が多数回にわたって請求する多数回開示請求及びそれらと結合した大量不服申立て、行政訴訟の提起など)。 この問題への対応は、長い間、現行法上特別のフォローなく、基本的には窓口対応など実務での工夫に委ねられてきたのが実情であり、また、裁判において、若干の例外を除けば、「権利の濫用」を肯定した裁判例もあまりない。しかし、情報公開制度が定着した今日では、濫用が存在する現実と正面から向き合うべきであり、特定の公開請求者に対して長時間にわたって、大量の行政的・司法的マンパワーとコストを費やして対応することは、相対的にその他の大多数の市民に対するサービスを低下させることに直結しかねない。この問題を放置すれば、制度全体に対する深刻なリスク要因になると指摘され始めている。近年では、この問題への対処のために、2011年情報公開法改正案では濫用等規定を置いていた。自治体においては、「権利の濫用」を理由に住民の開示請求を却下できるよう条例を改正する動きも出ている。 他方、中国では、今、この問題が制度の「異化現象」として大きく取り上げられ、すでに検討作業に入った国務院情報公開条例の改正に併せて、立法的な手立てを講じるよう強く求められている。 この問題に対する研究は両国ともまだ緒に就いたばかりであり、今後制度の解釈論や改正論などの次元で幅広い検討が求められている。
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