本研究は、共通的行政法制度の中でも特に行政訴訟制度の日中比較法的な考察を中心に、中国の特有性と日中の共通性(さらに国際的標準に照らした日中両国それぞれの特有性と共通性)を解明しようとするものである。研究を進めるうちに、日中共通の法現象として様々な実際的問題を分析するには、以下の2つの視点からのアプローチの重要性を認識している。1つは、地域研究(中国研究)としての学際的アプローチであり、もう1つは、現実の問題に対する日本の公法学的なアプローチである。 本年度は、多くの中国の行政裁判例(行政法上の論点にかかる行政訴訟判例)を収集・分析し、中国の行政訴訟が実際にどのように機能しているか、すなわち、現在の政治体制(中国共産党による一党支配と、その下での人民代表大会制度という国家体制)において、「行政法治」がどの程度機能し、また機能しうる領域はどこかを解明しようと試みている。それには、上記2つのアプローチが不可欠であり、前者においては隣接分野の知見、後者においては日本の公法学の研究成果を整理することに努めた。 2017年6月には、第13回日中公法学シンポジウム(中華人民共和国・鄭州大学)に参加し、中国人学者との意見交換をすると共に、上海・北京を訪問し、必要な文献収集と親交のある公法学者との意見交換を行った。また、地域研究の観点から、隣接分野から知見を得るため2018年2月には台南・高雄(台湾)を訪問し、同様の意見交換を行った。 これらの研究成果をまとめたものは、平成30年度以降に紀要等を活用して論文発表したいと考えている。
|