研究課題/領域番号 |
26380046
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
阿部 雪子 拓殖大学, 商学部, 教授 (50299814)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際信託 / 準拠法 / 租税回避 / 世代跳躍信託 / 受益権 |
研究実績の概要 |
外国の準拠法に基づいて設定された信託がわが国の租税法上、どのように取り扱われるべきかというのはきわめて重要な問題である。わが国の租税法上、課税要件の解釈においてはわが国の私法を参照すべきか、あるいは外国の準拠法を参照すべきであるのかという点で議論が分かれている。この問題につき、本年度はアメリカのニュージャージー州で設定された信託において、その設定時に委託者から受益者へ贈与がなされたとみなされるか否かが争われた裁判例を素材として、わが国の租税法上の「信託」の意義を解釈した上で、外国の準拠法に基づいて外国で設定された信託の権利・義務関係を認定し、さらにわが国の租税法上の信託の解釈に当てはめるという視点から考察を行った。とりわけ、この裁判例では判断が示されなかった贈与税の課税対象となる財産の所在に着目し、信託に関する権利(受益権)の意義に関する検討を行った。その結果、受益権が信託を構成する財産権の性質を有するものとみるべきか、それとも信託上の権利であるとみるべきかにより受益権の所在が異なるという解釈論上の重要な問題が残ることを明らかにした。この点につき、所得税法13条および法人税法12条の規定により受益者は信託財産を所有しているものとみなさることから、受益権は信託財産との結びつきが重視されていると考えられる。他方で、新信託法の受益証券発行特別信託にみられるように受益権そのものが証券化されて転々と移転することが予定されていることから、受益権の意義に関する解釈は困難な問題を含んでいるという一定の知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外国の準拠法に基づいて設定された信託の権利義務関係の諸問題は、租税法研究会等における報告や国際取引法学会会員報告等の議論を通じて有益な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、新信託法上の新しい類型の信託を設定することによる租税回避行為及び外国法の準拠法に基づく信託の設定による租税回避行為の防止策を検討する予定である。具体的には、新信託法における受益者の存在しない信託を設定し、世代間を跳躍した資産を移転することにより相続税や贈与税を回避することが可能となりうるところから、これに対応するため、アメリカで導入されている世代跳躍移転税(Generation-skipping Transfer Tax)を参照することにより、わが国の居住者が外国の準拠法に基づいて信託を設定し、世代間を跳躍した資産の移転に対して相続税法の解釈論および立法論上の問題について検討を進めていきたい。さらに、委託者が詐害的な信託行為を行った場合における委託者の債権者の詐害行為取消権と新信託法上の詐害信託の解釈の問題に関し、裁判例を通じて考察を行う予定である。
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