本年度は、本研究の中心概念であるドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」の理解を深め、それに基づく人権解釈の指針を探求した。その一環として、「憲法問題研究会」にて「それでも人間の尊厳は絶対である」と題する報告を行った。 そこでは、「人間の尊厳」の絶対性の動揺(「人間の尊厳」の比較衡量可能性の主張)が、比較的近年ドイツで、そしてその影響を受けて日本でも発生していることから、その是非の考察を行った。まず、問題となる場面として、「生命倫理」「救助のための拷問」「転向事態(Regnade Fall)」といった領域を取り上げ、それらの領域での、学説の対立状況、及び判例の問題点を検討した。そして、人間の尊厳の絶対性の動揺をもたらしている、人間の尊厳同士の規範衝突とされている事例の多くは、人間の尊厳と生命権を明確に区別する立場から、他の枠組みで捉えるべきことを明らかにした。しかし稀な事例ではあるが、人間の尊厳同士の規範衝突が存在することもあることを示し、その場合の解釈可能性について考察した。さらに、「人間の尊厳」の絶対性が維持されてきた法社会学的理由、加えて当該概念の歴史的意義を考察することにより、結論的にはドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」の絶対性を維持すべきこと、日本国憲法の解釈学にこの「人間の尊厳」の概念を導入する場合は、法文上及び現在の憲法状況からして、なおさらそうであることを示した。
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