研究課題/領域番号 |
26380047
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
押久保 倫夫 東海大学, 法学部, 教授 (30279096)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人間の尊厳 / 人格権 / プライバシー権 / 労働条件 / 歩合制賃 / 人間像 / 哲学的人権 / 人権主体 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究の中心概念であるドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」についての理解を深め、日本国憲法の「人間の尊厳」に直接結びつきうる、人間の共通性に基づく人権条項についての具体的解釈論を行った。また、本研究課題と密接な関連を有する人権主体・人間像に関する研究も行った。 具体的には、事故により死亡した者の遺影を撮影し報道した行為が、遺族のプライバシー権及び、静謐に故人を悼む利益や敬愛追慕の情を侵害しないとされた判例についての解説・検討を行った。これについては、本判決では原告は死者自身の人格権ではなく、遺族の情報プライバシー権として遺影を公表されない自由を主張したが、死んだらその情報が直ちに遺族の「自己情報」になるわけではないので、死者自身の肖像権ないしプライバシー権として構成する方が、本筋であったことを指摘した。 また、タクシー運賃規制が営業の自由に反しないかが争われた裁判について考察した。そこでは、運転者の労働条件の悪化をもたらしている根本原因が歩合制賃金体系であることを指摘して、この人間の尊厳に関わる問題に対して私法が行える役割を指摘して、判決を批判した。 以上はいずれも本年度公刊されたものである。本年度脱稿したが、出版は次年度になったものとして、論文「人権/権利/人間像―『一人前の人間』論を契機として」がある。これは奥平康弘氏の「一人前の人間」論について、子どもや老人について「人権」ではなく彼らに固有の「権利」を主張する側面と、その前提として「一人前の人間」ないし「平均人」を人権主体として提示する部分に分けて検討し、それを基に筆者独自の展開も行ったものである。そこでは哲学的人権の正当化及び実定化に向けた実践的主張における人間像のあり方を考察し、また子どもや老人の固有の「権利」は、現在および将来における彼らの人権行使の基礎と位置づけられることなどを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は「研究実績の概要」にも記したように、日本国憲法の「人間の尊厳」に直接結びつきうる、人間の共通性に基づく人権条項についての具体的解釈論を行い、本研究課題と密接な関連を有する人権主体・人間像に関する研究も行った。これらは本研究を行う上で重要なものであるが、各論的考察と、総論的な原理的考察に分かれ、それらが必ずしも体系的に明確な結び付きを示しているとは言い難いので、やや遅れていると自己評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で得た各論的考察と、総論的・原理的考察を有機的に結び付けることによって、「人間の共通性に基づく人権の新たな解釈論」を日本国憲法へ体系的に導入する為の、体系的理論を構築したい。そしてそれを基に、この理論によって表象できる人権条項を具体的に提示し、その性質等を論じていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の夏休みにドイツ等外国へ出張して文献収集を行う計画であったが、体調を崩してしまい行けなかったので、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、夏休み等を中心に文献収集の為の外国出張を行い、さらに国内出張、書籍購入や物品調達で使用する計画である。
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