研究課題/領域番号 |
26380049
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岡田 正則 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (40203997)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公権力の行使 / 行政処分 / 行政行為 / 行政訴訟 / 行政裁判制度 / 外国法の継受 / 司法制度改革 / ドイツ公法史 |
研究実績の概要 |
2016(平成28)年度の研究では、前年度に続き、明治期以降の日本における行政争訟制度の創設と展開の過程に関する検討作業を進めた。前年度までのまとめとして、2016年2月に、マックスプランク欧州法史研究所での招待講演として研究報告「19世紀末の日本における行政裁判制度の“翻訳”:グローバル化と国民国家形成」を行い、その公表を2016年度の一つの課題とした。上記報告の際などに諸種の助言を得て改訂作業を進めているが、残念ながら、まだ公表論文として完成するに至っていない。2017年度の課題である。 次に、現代社会におけるグローバル化と行政法との関係という視点から、概括的な研究を行い、論文「グローバル化と現代行政法」として公表した。当該論文作成の過程で、19世紀前半における国民国家と「権利」概念の形成過程を研究する必要性を痛感した。このため、18世紀末以降のフランス人権宣言と諸憲法・フランス民法典におけるcivil/citoyen概念の変遷に関する分析および19世紀前半のドイツにおけるこれらの受容と拒絶の過程に関する分析という、憲法における「国民の権利」と民法における「私権」の形成過程の研究に着手した。 行政救済の対象となる法関係の分析と制度形成の主体の考察として、法学教育の形成過程の検討も行った。そこでは、近代社会における「市民」(主権の担い手、人権の享有主体)教育と「国民」(国民国家の担い手)教育との関係を整理する必要があることを指摘し、ごく簡単ではあるが、戦後民主主義法学における「市民」像、70年代における変革主体としての「市民」像、80年代の市民法論における「市民」像、反グローバリズムの「マルチチュード」像を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述のとおり、「近代国家における行政救済制度形成史」を総合的に解明するためには、憲法における「国民の権利」と民法における「私権」の形成過程に関する研究が不可欠だと考えるに至った。この研究については、おおむね次のような構成の論文を準備している。(1)フランス革命期におけるcivil概念の変遷:(a)Code civilにおけるcivil概念、(b)フランス革命期の諸憲法におけるcivilとhomme/citoyen( 1789年「人と市民の権利宣言」および1791年憲法、1793年憲法、1795年憲法および1799年憲法、ユダヤ教徒および植民地住民の市民権問題)、(c)Code civilにおけるcivilとcitoyen(Code civilにおけるcivil/citoyenの規定、非フランス人へのCode civilの適用、Code civil制定後におけるcivilとcitoyenの概念)、(2)近代ドイツにおけるcivil概念の受容と拒絶:(a)civil/citoyenとzivil/Buerger/Staatsbuerger、(b)Code civilとプロイセン一般ラント法(ALR)およびオーストリア民法典(ABGB)(ALRとABGBにおける権利と権利主体の規定、3つの法典の共通性と差異、19世紀初頭の法分野・法体系に関する認識とcivil概念)、(c)civil概念に対するサヴィニーの対応(19世紀初頭のドイツにおける法状況とサヴィニー、カントとヘーゲルにおけるcivil概念の継受、サヴィニー『使命』のスタンス、サヴィニーにおけるVolkとNationとBuerger:civilとの距離)、(3)公共的なcivil概念の探究(civil概念とcitoyen概念の変化の整理、人権の分類論との関係、法の継受という営為)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度として、成果の公表に重点を置くことにしたい。 第1に、上述の「国民の権利」と「私権」の形成過程に関する論文の作成と公表である。水林彪・吉田克己・楜澤能生編『市民社会と市民法----civilの制度と思想 歴史と現在』(日本評論社、2017年)での公表を予定している。 第2に、上述の共同研究の成果「19世紀末の日本における行政裁判制度の“翻訳”」の公表である。1867年オーストリア国基本法中の行政訴訟関係条項(15条等)と1875年10月制定の同国行政裁判所法、フランスの委任司法に関する1872年法の検討を補う必要がある。また、グナイストとモッセの影響をたどる上では、1875年のプロイセン行政裁判所法の分析も欠かすことができない。これらについては、最新の研究成果であるSommermann/Schaffarzik (Hrsg.), Handbuch der Geschichte der Verwaltungsgerichtsbarkeit in Deutschland und Europaなどを参照して考察を進めるほか、必要に応じて調査も行いたい。 第3に、上記の中に日本と東アジアの行政救済制度の形成過程と現状を位置づけることにしたい。東アジアという視点については、これまで、司法制度改革・行政救済制度・経済行政法の研究について韓国・台湾・中国の行政法研究者と交流があるので、これらの研究者の協力を得て、行政救済制度形成史という視点から、東アジアにおける近代国家および国家間関係の形成過程を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のとおり、論文「グローバル化と現代行政法」の作成過程で憲法における「国民の権利」と民法における「私権」の形成過程に関する研究が不可欠だと考えるに至ったため、本研究を1年間延長することとした。 加えて、1867年オーストリア国基本法・1875年同国行政裁判所法、フランスの1872年法、1875年プロイセン行政裁判所法に関する研究、および東アジアの行政救済制度の形成過程との関係に関する研究もまだ不十分であることも、研究延長の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
公表用の論文を作成するために諸種の資料を必要とするので、今年度に繰り越した分(約10万円)は、そのための使用に充てることにしたい。具体的には、フランスの行政救済およびドイツの行政救済に関する文献の購入費用として、各5万円程度を予定している。
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