2018年度は、昨年度に引き続き、フランスおよびわが国の行政責任の拡大とその問題点について考察を行った。 第1に、わが国の行政責任の拡大についての研究として、原発避難訴訟のうち国家賠償請求に関する訴訟に関する裁判例を整理した。原発避難訴訟における、規制権限の不作為に関する国家賠償においては、津波の被害による原発事故を予見できたか、及び、事故を回避することができたかが主要な論点となる。現時点では下級審判決しか見られないが、国の責任を認める判決が少なくない。一方で、国の責任を認めない判決も一部見られるが、原発行政における行政責任は、単なる危険管理責任はなく、国自身の危険責任としての側面でもあるという点につき留意すべきと言えよう。 第2に、フランス法に関しては、本年度は、最近の訴訟において、フランスの行政責任の拡大に関して争点となっている、テロリズムに対する規制権限の不作為に関する判決を取り上げ、行政責任の拡大と、それに対する司法的統制につき研究を行った。これらのテロリズムに対する行政の権限行使は、かつては広く裁量が認められ、フランス行政賠償責任法の特色の一つとされた「重大なフォート(faute lourde)」が要求されてきた。重大なフォートは20世紀末以降、多くの分野で縮減したが、テロリズムの被害者による国家賠償請求において、「復権」していると考えられる。例えば、コンセイユデタは、2018年7月18日判決において、テロ防止に関する不作為責任につき、重大なフォートを要求し、また、下級審には、パリでのテロに関するパリ行政裁判所2018年7月18日判決が、「重大なフォート」を要求している。重大なフォートが復活していることは、行政責任の拡大と国家賠償責任(場合によっては損失補償を含みうる)に関する一種の調整が行政裁判所の判例政策によって図られていると考えられる。
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