研究課題/領域番号 |
26380056
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大田 肇 津山工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (30203798)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生命に対する権利 / ヨーロッパ人権法 / 1998年人権法 / 過失責任 / 戦闘行動免責 / イギリス |
研究実績の概要 |
イラク戦争・占領に参加し、現地で死亡あるいは負傷したイギリス兵士の遺族あるいは本人たちが、イギリス国防省を相手におこした損害賠償を求める訴訟の最高裁判決が、2013年6月19日に下された(Smith & Others vs The Ministry of Defence [2013]UKSC 41)。その多数意見の判断は、本案は詳細な事実関係にもとづいて判断される必要があり、高等法院へ差し戻すというものであった。高等法院での審理は現在も継続中である。 この間、この最高裁判決をめぐる様々な議論が展開されている。第1は、ヨーロッパ人権条約およびその中の大半の人権保障条項を国内法化した1998年人権法の、特にその「生命に対する権利」の「戦場」での適用の可否に関するもの、第2は、コモンロー上の過失責任およびそれに関連する戦闘行動免責に関するものである。2015年に発表され、注目された論文の1つが、Clearing the Fog of law, by Richard Ekins, Jonathan Morgan, Tom Tugendhat(Policy Exchange)である。この中では、ヨーロッパ人権条約からの免脱および戦闘行動免責の行使が提案されている。そこには、イギリス軍の戦闘行動能力が訴訟を恐れる上官達によって低下してしまうことへの危機感がある。つまり、軍事的価値を市民的価値よりも重視する姿勢である。では、死亡・負傷した兵士立ちはどうなるのか?この著者たちは、潤沢な補償金等での対応を主張する。こうした法的・制度的対応をめぐる主張を収集・整理してきたのが、今年度の研究実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高等法院の判決を待ちながら、関連の論文、資料等を収集・整理できている。議会の国防員会での検討・国防省での検討も含みながら、整理できているので、バランスのとれたものとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
「生命に対する権利」の視点と過失責任からのそれ、この2つの方向で研究を進める必要があるが、2015年5月の総選挙で保守党が過半数を制し、人権法が廃止される可能性が出てきた。そうした政治状況を考慮すれば、本年度はコモンロー上の過失責任とそれに対する戦闘行動免責との視点から、軍事的価値と市民的価値との鬩ぎ合いを探っていく。コモンロー上の過失責任というアングロサクソン法特有の領域へどの程度踏み込めるか、はっきりとした見通しは立たないが、伝統あるコモンロー上での議論は、法的価値のあるものと想像される。その議論は、今後のイギリス裁判所で継続的に展開されていく可能性が高いからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度にイギリス出張の予定であったが、高等法院の判決がまだであったことなどから、出張を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度はイギリス出張をおこなう。高等法院の判決が出なくても、法曹関係者、大学研究者等との情報交換、資料等の収集のため、おこなう。
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