研究最終年度に当たる平成28年度は、国内裁判所の役割を中心に検討を行った。第1に、国内裁判所による国際法の原理・原則の適用の在り方を検討した。国内裁判所が第一義的に解釈・適用するのは国内法規則であるが、とりわけ人権分野の諸規則に顕著なように、国際法と憲法とが共通した規則を有している場合、又は条約の実施法の解釈適用が問題となっている場合には、国際法規範も参照されうる。この点で、日本の裁判所は厳格・謙抑的な立場をとる傾向にあったが、近時、国際規範の参照に積極的ともみられる判例や、正面から参照を認めないものの、国際規範の実質的な内容を取り込んでいるとみられる判例が現れていることを指摘した。また、国際規範の参照に積極的な外国の裁判所の判例を検討し、日本に対する示唆の有無について考察した。第2に、第1の点とも関連して、国内裁判所が国際法規範を解釈適用することが、他の国内機関との関係にどのように影響するかを検討した。とりわけ、行政府の裁量が国際法の義務により制約されることで、司法審査の対象となるとされた事例をとりあげ、その一般化可能性について考察した。これらと並行して、第3に、管轄権の基礎理論についても検討を進めた。 以上の成果は、順次論文のかたちで公表してきており、年度内に公表できなかったものについても早期に公表する予定である。また、外国の研究者を招聘して研究課題に関するセミナーや研究会を開催し、研究課題についての考察を深めることができた。
|