研究課題
本研究は,グローバル化によって国民国家の枠組みがゆらぐなかで,国際家族法がどのように変容しているかを検討した。その結果,以下の点が明らかになった。①人の移動が活発化する中で,個人の国家及びそれ以外の集団への帰属は相対化かつ多元化している。個人が帰属意識をもつ集団は,国家には限定されず,地域共同体,少数民族,宗教共同体などの様々な集団も対象となりつつある。また,移民受入国は,移民の統合を進めるために重国籍を広く認めるようになっている。重国籍者が格段に増える中で,国籍はもはや個人の伝統・慣習・文化等を反映する国民国家との紐帯の象徴ではなく,経済的又は功利主義的な目的から保持されることも少なくないことが示された。②国籍を基準とする本国法主義は,個人が一般に本国と実効的な結び付きを保っている日本及び韓国等では,戸籍実務の処理等の必要性もあって現在でも合理性をもつが,EU域内での市民の自由移動が進み,流入移民が格段に増えているヨーロッパではもはや妥当せず,常居所地法主義に移行する傾向が顕著であることが示された。③グローバル化とともに多元化する社会の中で個人のアイデンティティーを尊重するためには,国籍と常居所の連結点のいずれか一つを一義的に選ぶことはできず,事案ごとに判断せざるを得ない。そこで,当事者自治を認め,自らのアイデンティティーを反映する法を当事者自身に選択させるのが相当であることが示された。また,宗教共同体その他の集団に帰属意識をもつ者のため,一定範囲ではこれらの集団において妥当している非国家法としての宗教法や慣習法などを尊重し,宗教裁判所が行う仲裁又は調停にも一定の法的効力を付与する方策を探るのが望ましいことが示された。
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