研究課題/領域番号 |
26380064
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 一頼 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 准教授 (00405143)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際投資協定 / 投資協定仲裁 / 公益的規制権限 / 知的財産権 / 公衆衛生 / 責任 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際投資の保護に関する条約が、締約国の公益的な規制権限を過度に侵食する恐れがあるという近時の議論につき、その当否を検証するとともに、投資協定において外国投資の保護と一般公益の実現とを適切にバランスさせるための解釈論および立法技術のあり方を提示することを目的とする。これに基づき本年度は、投資保護と公益規制とが衝突しうる事例を収集し、それに関連する仲裁判断や、新たな条約作成技術の発達などを検討することに主眼を置いた。 とりわけ、投資保護と公益規制との衝突が近年先鋭化している分野として、知的財産権分野に注目した。海外で保持する知的財産権が「投資」的な価値を持つと考えれば、その価値を損なうような相手国政府の行動に対しては、投資協定違反を問うことが可能になるが、もし投資協定による保護が過度に強力であれば、各国政府の政策裁量の余地が狭まり、知的財産制度に組み込まれたバランスが崩れる恐れもある。そこで本研究では、投資協定に基づく紛争解決手続が現在進められている医薬品特許関連の事例を主な素材としながら、知的財産権の保護と公衆衛生上の規制権限との間に適切なバランスがとられているかを検討し、その成果を公表した。 また、投資協定仲裁における責任の性質に関する理論的考察も進めた。その結果、投資協定では、実体規範の特質として、あくまでも個々の政府―私人関係を単位とする二者間の枠組みにおいて違法性の有無が判断されるのであり、そこでは責任の趣旨も、客観的な法秩序の修復というよりは、個々の法主体に発生した主観的な損害の填補に求められることを明らかにした。それゆえ、投資協定の違反から生じる責任は、投資受入国の規制の修正を求めるものではなく、規制主権に対する過大な干渉には当たらないと考える余地がある。これは、投資保護と公益規制との関係を今後検討していくうえで、重要な理論的基盤になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず投資協定による投資保護と、締約国の公益的な規制権限とが衝突する具体的事例を収集し、それに関連する仲裁判断や条約実行において両者のバランスがいかに図られているかを分析することが主要な目的である。これに関して、本年度は、投資財産としての知的財産権の保護と各国の公衆衛生上の規制権限とが衝突する事例に着目し、その検討を通じて重要な知見を得ることができた点で、研究期間初年度としての目的はほぼ順調に達成できたと言える。また、本研究は、投資協定と公益規制権限との衝突の分析を通じて、より一般的に、国際経済法における国際規律と国家主権との関係の問題を、いわゆる立憲化論の枠組みで考察することをも長期的な目標としている。その点に関していえば、本年度は、投資協定仲裁における責任の性格について基礎理論的な検討を進めることができ、今後の一般的な分析枠組みの構築に向けて重要な基盤が得られたという点で、研究を大きく前進させることができた。以上のように、本年度は、交付申請書に記載した研究の目的にほぼ沿った成果を得ることができたと考えられ、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
投資保護と公益的規制権限との衝突が顕在化している事例について、引き続き各分野の事例の収集に努める。そのような分野の例としては、すでに本年度から検討を進めている投資保護と公衆衛生の問題に加え、投資保護と環境保全、投資保護と文化多様性振興、投資保護と公序・公徳、などといったものが考えられる。これらの事例の分析を通じて、現在の国際投資法が発達させつつある投資保護と公益規制の調整原理を明確に析出していくことが次年度の課題である。また、そうした調整原理の構築に際して、国際人権法などの他の分野ですでに発達を遂げた考え方が導入される傾向もあるため、こうした分野横断的な知見の流通動向とその意義についても意識的に考察を進めていくこととしたい。さらに、国際経済法における一般的な分析枠組みとしての立憲化概念に対して国際投資協定が持つ示唆に関しても、個々の事例研究を蓄積するなかから一定の知見を導出できるよう研究を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、年度途中に研究代表者が大学を異動することになったため、その前後の期間における国内外の出張計画および物品の購入計画に変更や遅れが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに翌年度において物品等の購入計画および実施すべき国内外の出張計画は作成しており、翌年度の研究費が執行可能となり次第、この計画に基づき支出を行う。また、翌年度分として新たに配分される予算についても、すでに物品購入や出張に関する計画を別途作成しており、これについても年度内に予定通り執行できる見込みである。
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