本年度は研究期間の最終年度であるため、これまでの研究成果の取りまとめと公表に向けた準備を行うと同時に、これまでの研究の延長としていくつかの新たな課題にも取り組んだ。 第1に、投資保護と社会公益の衝突の調整という本研究のテーマにとってきわめて重要な意義を持つ投資仲裁判断が、近時連続して発出されているため、その詳細な分析を行った。特に、スペインの太陽光発電支援スキームにおける制度変更が提訴された案件、ウルグアイにおけるタバコパッケージのブランドロゴ使用禁止措置が提訴された案件、カナダにおける医薬品特許の無効化が提訴された案件で、いずれも投資受入国の措置は投資協定に違反しないとの判断が示された。これらの仲裁判断では、本研究が投資保護と社会公益の調整原理として着目してきた諸要素(比例原則、客観化された「正当な期待」など)に依拠しながら協定違反無しとの結論が導かれており、本研究で構築した分析枠組みが実際に幅広く活用しうることが例証されたといえる。 第2に、仲裁判断とは別に、投資協定の枠組みそのものに関しても近時重要な変化が見られる。特に、欧州連合が締結する経済連携協定に含まれている投資裁判所の設置規定は、従来の仲裁という形式に代えて、より一貫性・正統性の高い紛争処理手続を模索するものであり、本研究のテーマとも深く関連するため、その動向について詳細な調査を行った。また、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめ、近時の諸協定では投資保護の実体規定について社会公益との調整の観点から一層の詳細化や限定を図るケースが増加しており、かかる動きに関しても調査・分析を行った。 第3に、これらの研究成果の取りまとめの意味を持つ業績として、投資協定の下での投資保護と社会公益の調整のあり方を、国内公法上のそれと比較検討し、両者間の差異を明らかにする論稿を執筆し、これを間もなく公表する予定である。
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