研究課題/領域番号 |
26380069
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
河野 真理子 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90234096)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際裁判 / 国際海洋法 / 強制的管轄権 / 判決の法的拘束力 / 欠席裁判 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、特に海洋法の分野の国際裁判の判決の効力についての研究を行った。当初の計画では、国際法の全般的な分野での国際裁判の判決の効力についての研究を行う予定であったが、国際社会の現在の事情から、海洋法分野に限定した研究を行うことが妥当であると判断した。 2013年1月、国連海洋法条約の下での義務的紛争解決制度を利用して、フィリピンが中国を仲裁裁判に訴えた。この事件は、国際社会における一方的な力の行使への法に基づく対応であると評価できる。この制度を利用した仲裁は、2013年10月にオランダがロシアを訴えたアークティック・サンライズ号事件にもみられる。従来の国際裁判制度では、中国やロシアを国際裁判で訴えることが非常に困難であったが、国連海洋法条約の下であればそれが可能であることが明らかになった。ただし、この2つの事例では中国とロシアは仲裁裁判に欠席する立場をとっている。平成27年度は、8月にアークティック・サンライズ号事件の最終判決、10月にフィリピン対中国の事件の管轄権に関する判決が出されたこともあり、大国が仲裁を欠席する場合に、その仲裁判決の法的拘束力をどのように考えるべきかが具体的に論じられる年となった。 こうした事情から、国連海洋法条約の下での紛争解決制度の意義やその判決の効力が論じられる国際的なフォーラムに招待される機会が多く、その報告の準備を通じて、国際裁判の判決の効力や国際裁判制度の意義そのものを具体的にかつ深く考察する研究を行うことができた。そして、会議の成果として出版された図書や平成27年度中に出版された図書に寄稿することで、成果を発表することもできた。特に国際的なフォーラムでの報告はすべて英語によるもので、その成果も英語によって公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記述したように、当初は本研究で国際法の分野の全般についての国際裁判所の判決の効力を研究し、考察する予定であった。しかし、2015年度は、その他にも海洋法の分野で重要な判決が続けて出されたこともあり、国際会議等で報告を依頼される機会が多かった。こうした依頼に対応し、外交実務や裁判実務に携わっている人々との交流の機会を得ることで、国際裁判の判決の効力をより具体的に論ずることができたことは、十分に意義がある研究であったと考えている。これは、本研究課題の目的に本質的に合致するものであるし、また本研究を行っているからこそ対応できたものと考える。 ただし、そうした会議への出席とそのための準備、事後の論文の発表には多くの時間が必要であり、それに加えて、さらに主体的な調査を行う時間が取れなかったことが反省点であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、過去2年間の研究の実績を踏まえ、より規模の大きい論文を英語により執筆する年としたいと考えている。 海洋法の分野での国際裁判の判決が急速に蓄積されてきていることは本研究を企画した当初には必ずしも予測できなかった。こうした蓄積を正当に評価するためには、海洋法の分野だけの判決の効力だけでなく、国際法の全般的な分野に関する国際裁判の判決の意義を改めて十分に考察することが必要であると考えている。従来の国際判決の意義と問題点を再評価し、新しい国際判決の方向性を論じることができるような内容の著述を行いたいと考えている。 今年度も既に国際会議等への出席を依頼されているものの、上記のようなまとまった著述を可能にする時間を十分にとり、この3年間の成果を公刊できるような研究を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国からの招待講演の機会が多く、その準備のための研究と執筆のために多くの時間が必要であった。また、これらの招待講演を行った国際会議で、外交実務や裁判実務に携わる多くの研究者や実務家との意見交換と議論の機会が持てたため、科学研究費の支出による外国調査を行うことに相当する結果を得ることができた。ただし、こうした国際会議に貢献するために、資料と書籍による研究を十分に実施する必要があり、多くの費用をこれに支出した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は引き続き、国際会議3件に招待されており、その準備のための資料と書籍による研究を十分に実施する予定である。また、秋以降に、調査研究のための外国出張を実施し、まだ十分な意見聴取を行えていない、南米地域についての研究を行いたいと考えている。さらに、英語によるまとまった執筆を行いたいと考えているので、その英文校閲のための費用の支出を予定している。
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