研究課題/領域番号 |
26380076
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関 ふ佐子 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (30344526)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 社会保障法 / 高齢者法 / アメリカ法 |
研究実績の概要 |
本研究では、高齢者医療に関するアメリカとの比較法研究を通じて、高齢者の尊厳と配分的正義について考察している。 本年度は、第一に、アメリカにおける医療保障改革(オバマケア)の内容と実施の動向を整理・研究し、高齢者医療をめぐる法政策の全容と、そこで繰り広げられている議論の成果を分析した。これを行うにあたっては、アメリカの研究者であるNina A. Kohn教授(Syracuse University)やJames H. Pietsch教授(University of Hawaii)などと意見交換を図るとともに、Aging, Law, and Society Collaborative Research Network(ALSCRN)のメンバーとなった。ALSCRNは、高齢者をめぐる法的課題について、世界各国の研究者をネットワーク化し、意見交換を促進し、研究成果の共有を目指したものである。ALSCRNのメンバーとなることで、本研究課題について、世界的な視野のもと研究することが可能となった。こうしたなか、医療保障改革に関する研究成果の一部は、論文として公表した。 第二に、「高齢者法研究会」を創設し、平成26年度に研究会を4回開催した。高齢者法研究会は、高齢者をめぐる法的課題に特化して研究する高齢者法という新分野において、法学の研究者が多分野の研究者および弁護士・行政関係者・福祉関係者といった実務家と学際的・横断的な共同研究を行う場となるよう創設したものである。本研究課題である高齢者の尊厳と配分的正義について具体的な議論が可能なメンバーが揃っている。高齢者法研究会を創設できたことで、本研究を深めていく基盤が整ったとともに、高齢者をめぐる法学研究の発展に寄与できればと考えている。高齢者法研究会において、本研究成果の一部を2度報告することで、研究に際して考察すべき課題が明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、第一に、初年度である平成26年度は、アメリカのオバマケアの内容と実施の動向を具体的に整理・研究するという計画をたてた。平成26年度は、これを実施し、現行の医療保障改革一般の動向を探り、その評価を行い、その成果の一部を、論文「アメリカにおける医療保障改革-公私混在システムの苦悩」論究ジュリスト11号(2014年)73-80頁として公表した。 第二に、平成27年度から本格的に実施する高齢者医療を支える法原理の解明に必要な問題点の抽出と整理、具体的には配分的正義をめぐる課題の解明に必要な論点の抽出と背景にある哲学的な理論の整理を平成26年度は行うという計画をたてた。これを実施し、高齢者医療を支える法原理の解明に必要な文献を集め、その整理をし、論点の抽出をした。さらに、こうした点について実質的な議論を可能とする場として高齢者法研究会を創設し、研究成果の一部を「高齢者法の全体像と将来展望」(平成26年8月27日)、「高齢者特有の法的支援」(平成26年10月30日)として報告した。 第三に、世代間の配分的正義について、論点を抽出し日本の法政策を具体的に検証する素材として不妊治療にについて研究し、その成果を、論文「不妊治療における特定治療支援事業の課題」生活福祉研究87号(2014年6月)4頁として公表した。例えば、透析の医療費は、外来で1か月40万円程度、入院で100万円程度かかるなか、この医療費は高額療養費の特例である長期高額疾病として保険により支払われており、患者の負担は1万円程度となる。こうしたなか、透析医療も行える高齢者施設などが誕生している。他方、次世代の誕生に向けた不妊治療は、同様に1か月40万円程度かかるものの保険の対象とはなっておらず、医療費の助成には回数と所得制限がある。そこで、後者をめぐる法制度を研究し、配分的正義の問題を考察する糸口とした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、第一に、アメリカの医療保障改革の内容と実施動向を引き続き研究する。オバマケアでは各改革が順次実施されており、大統領選挙も影響し、数年間の動向を検証しない限り、改革の成功・失敗は評価できない。オバマケアの研究により、そこで実施されている高齢者医療の費用削減策などが実効的であるか、それらは高齢者差別を醸成していないかという点を具体的に解明する。これにあたっては、アメリカに渡航し実態調査を行うとともに、研究者や実務家と連携を図ることにより、最新の動向を整理・検証する。 第二に、高齢者医療をめぐる配分的正義の問題について、アメリカにおける法哲学の研究を参照しつつ研究し、高齢者医療を支える法原理に関する本格的な研究を進める。これにより、わが国における高齢者と若・中年者の世代間不公正を解消するための法原理の糸口を解明したい。研究にあたっては、アメリカの研究者およびALSCRNを通じて世界各国の研究者と意見交換する予定である。 こうした研究の試論や成果は、論文や発表という形で随時発信していく。具体的には、平成27年6月27日に東京大学において開催予定の国際ワークショップ『高齢社会と法―よい最期をどのように選ぶか』(仮案、東京大学大学院・博士課程教育リーディングプログラム「活力ある超高齢社会を共創するグローバル・リーダー養成プログラム」(GLAFS)主催)において、David English教授(University of Missouri)の報告にコメントする形で報告予定である。さらに、アジアの社会保障法の研究者が集まり平成27年8月8日に熊本・阿蘇で開催される研究会で報告予定である。本研究会には、社会保障法という法分野を確立された大家である荒木誠之先生を中心に、日本、韓国、台湾の社会保障法の研究者が参加予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、Nina A. Kohn教授やJames H. Pietsch教授などとメールやスカイプを利用して意見交換を行うとともに、Aging, Law, and Society Collaborative Research Networkへの加入という海外の研究者との研究基盤の確立に時間を割いたため、アメリカに渡航する必要性が低かった。また、国内においても、高齢者法研究会を創設し、東京・横浜において各種意見交換が可能な研究拠点を築けたことから、本研究のために、他の地域の研究会に参加するための旅費を必要としなかった。 他方、平成27年度は、アメリカ渡航や国内での他の地域の研究会での研究報告を予定しているため、旅費が嵩む予定である。このため、平成26年度は平成27年度用に予算を若干残す形とした。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年8月8日に、熊本・阿蘇で行われる社会保障法の研究会で報告予定であり、この旅費に使用する予定である。 メールやスカイプによる意見交換は、通信環境が整わないといった課題もあり、限界がある。そこで平成27年度は、アメリカに渡航する。アメリカにおいて医療保障改革の実態を調査するとともに、医療政策に詳しいBryan A. Liang教授(UC San Diego)などと意見交換をするための海外旅費として使用予定である。
|