医療費の嵩む高齢者医療の財源の多くは、若・中年者が税や保険料という形で負担している。所得の再分配を行う社会保障制度においては、支える側と支えられる側の世代間の公正を保つことが、社会保障制度の持続可能性につながろう。例えば、75歳以上の高齢者は、それ以外の年代の4.5倍の医療費を使用しており、世代間の対立構造が生まれやすい状況にある。こうした状況において、社会保障関係費を抑制する医療制度改革が先行した場合、高齢者のニーズが疎かにされ、高齢者の自律や尊厳が侵害されかねない。他方で、特定の世代の負担が急増しないような配慮も必要である。 この点、アメリカでは、高齢者の医療費を削減する策として、ACO(Accountable Care Organization)やメディカルホーム(かかりつけ医的な医療機関)がオバマケアにおいて推進されている。こうしたオバマケアについて、平成28年5月に日本医師会とともにアメリカのワシントンとニューヨークを視察した。日本医師会の視察に同行することにより、単独ではアポ取りの難しいアメリカの政府機関であるCMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)への訪問などが実現した。アメリカにおいても、高額化しつつある医療費が課題となっており、いかにして高騰する医療費を管理しつつ医療の質を向上させるかが模索され、その結果としてACOといった仕組みが発展してきているという実態を調査することができた。ACOの具体的な仕組み、とりわけ医療の質も同時に向上させようという試みは日本においても参考となろう。 さらに、研究の最終年度として、高齢者医療をめぐる世代間公正の問題について考察を深めた。高齢者医療をめぐる配分的正義の課題について、救済原理(Rescue Principle)、効用、高齢者の「功績」の観点から分析した。
|