本研究は,雇用流動化政策を進める上で必要とされる雇用・労働法制のあり方について2つの軸で検討を進めた。第1は,解雇(または有期雇用の雇止め)に関する金銭解決制度のあり方,第2は,解雇等において失業した労働者の転職力(employability)を高めるためのセーフティーネット政策のあり方である。 第1については,イタリアとスペインの法律の検討を中心に,さらにドイツなどの他の欧州諸国,加えて中国,台湾などアジアも視野にいれて検討し,そこから日本の解雇規制のもつ不当解雇を無効とするアプローチは限界にきており,日本型雇用システムの変化や第4次産業革命による産業構造や就業構造の激変に対応するためには,予測可能性の高い解雇規制を導入する必要があり,そのためにも金銭解決制度の導入は喫緊の課題であることを明らかにした。とくに金銭解決制度は,雇用の流動化を進めるための前提であり,それは単に解雇を容易にするだけではなく,解雇された労働者の所得保障にも配慮するという点で,解雇無効アプローチよりは優れたものであるということを明らかにした。 第2のセーフティーネット政策については,これまでの雇用保険や社会保障などによる受動的なセーフティーネットではなく,労働者の転職力を向上させるための職業訓練や労働市場のマッチングの向上のほうにより力点を置くべきであるとする現状認識を基礎として,前記の解雇の金銭解決制度による所得保障に加え,人工知能やロボット技術の発達による産業構造の大きな転換の動きや情報通信技術の高度な発展をみながら,政府が開始したばかりの政策的検討の理論的な基礎を提供するための研究を行った。さらにその過程で,今後は自営的就労者が増加するという見込みが明らかになってきたことから,これらの者に対する新たな政策的対応の必要性についても研究を行った。
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