非違行為を理由とする解雇については、ドイツ解雇法を支える比例原則と予測原則の具体的な内容を丁寧に解明し、かかる諸原則から具体的にどのような解雇の審査基準が導出されるのかを明らかにした。同時に、非違行為による解雇をめぐり増加する判例を行為のタイプ毎に分類し、解雇の判断基準と傾向を分析した。本研究では、とくに非違行為類型において最も重要な解雇回避手段である是正警告の有効性要件(警告内容の詳細さや具体性の要請、是正警告と解雇理由の同種性の要求等)や是正警告を経ずになされた解雇が有効となり得る例外的なケースの範囲などにつき、ドイツ法を分析し、その有効性要件を解明し、例外的ケースの範囲を画定することができた。かかるドイツ法研究から示唆を得て、日本の解雇権濫用法理の規範論理性や法的安定性を高める方向で再構成するための重要な指針を導出することができた。 勤務成績不良を理由とする解雇については、労働義務の性格(主観説、客観説)をめぐり対立するドイツ学説の議論状況を整理し、主観説の立場からその後蓄積を重ねてきたドイツ判例の具体的な審査基準を整理・分析した。しばしば争点となる当該労働者が平均的な給付水準を継続的かつ重大に下回るか否かについて、判例が採る厳密な審査方法や基準を解明することができた。こうしたドイツ法研究から示唆を得て、日本においてどの程度の勤務成績不良があれば解雇に値するのか、使用者は具体的に何をもって重大な勤務成績不良を証明すべきなのか、解雇に至る前にどのような回避手段が要求されるのか、解雇の審査基準の厳格さは正社員と職種等を特定した管理職や専門職の間で異なりうるかといった論点を解明することができた。 上述のような研究内容を日本の研究会発表やドイツでの研究滞在を通じて多角的に再検討したうえで、日本語およびドイツ語による各種論文等の発表を通じて公表することができた。
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