研究課題/領域番号 |
26380080
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
原田 純孝 中央大学, その他部局等, 客員研究員 (50013016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農地中間管理機構 / 農地制度の複層化 / 法人企業の農業参入 / 農業委員会制度改正 / 農地利用調整 / 地域的農地管理 / 遊休農地対策 / 農地制度の日仏比較 |
研究実績の概要 |
1.年度前半は体調を崩したため、予定した現地調査を含めて、十分な研究活動ができなかったが、夏以降は、前年9月の渡仏調査の結果を踏まえて、フランスの「農業、食料及び森林の将来のための法律」の内容をより正確かつ詳細に分析し紹介するべく、研究発表③の執筆を進めた。同法には、これからの農業が持つべき「経済的・環境的・社会的な二重、三重のパフォーマンス」、それを可能にする農業及び農業生産システムの多様性と多様な農業経営、その担い手(自然人たる農業者)を地域に根差した形で維持育成するための農業・農地政策と農地制度のあり方など、昨今の日本農政では等閑視されがちな諸要素が盛り込まれており、裨益するところが大きい。 2.年度後半は、(1)農地中間管理事業の3年目の実施状況と前年8月の農業委員会制度改正の影響を、関係機関の担当者の聞取りも踏まえて分析すると同時に、(2)農村現場の多様な実情を知るべく全国農協中央会「JAによる地域農業振興と農地利用調整に関する調査検討会」に参加し、また、(3)近年大きな問題となっている相続未登記、所有者不在又は所有者不明農地等の取扱いに係る全国農業会議所「遊休農地対策検討会」に参画した。(1)(2)で得られた中間管理事業の制度的特質と問題点に関する分析評価、及び(3)の問題に関する本研究者の当面の意見は、研究発表④に取り纏めている。 3.加えて12月には土地総合研究所「都市計画法における管理手法」研究会で「農業関係法における『農地の管理』と『地域の管理』」と題する報告を行い、研究発表⑤を執筆した。この課題は、本研究者が科研費による継続的な研究作業の中で以前から意識してきたもので、次年度中に「縮退の時代における農地と農村地域空間の管理のあり方」に関する論稿を取り纏める予定である。研究発表②もこの関係で示唆がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.年度の前半に加えて後半にも体調を崩した時期があったため、所期のスケジュール通りには行かなかったが、日本及びフランスのいずれについても、最も中心的な研究対象となる法律・制度について、本研究推進のベースとなる検討作業を順調に進めることができている。 2.国内の現地調査についても、「9.研究実績の概要」の2(3)の「検討会」において鹿児島県で現地聞取り調査を行ったほか、同前(2)の「調査検討会」で全国5カ所の市町村(岩手、山形、福島、長野、佐賀の各県)の実態調査結果をつぶさに知ることができた。 3.中間管理機構法の登場による「農地制度の複層化」の意味とその問題性の解明、並びにその今後の展開動向に対する評価の視点も、農業委員会制度改正が有する意味と合わせて、研究発表④の中でほぼ確定することができた。相続未登記、所有者不在又は所有者不明農地等の取扱いをめぐって農村現場で起きている諸問題・諸困難がその「複層化」の「最下層」を成していることを確認したのも、重要な知見の一つである。 4.上にいう「最下層」の問題、言い換えれば、その発生防止策を含む遊休農地対策の問題がまさに「縮退の時代における農地と農村地域空間の管理のあり方」の最重要な課題の一つになってきていることを確認したのも、重要な成果である。近く執筆予定の論稿(「9.研究実績の概要」3参照)においてその問題をも含めて考察を行うための基本的な視点も、同時に獲得できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.6月頃には農地中間管理事業の2016年度の実績が知られるので、農水省、官邸・規制改革推進会議、学界、農業界等からの反応や評価をもフォローしつつ、これまでに得られた分析結果を検証し、補充・補正する作業を進める。この事業制度が果たして今後の農地制度の「中心層」となりうるのかどうかが、ここでの大きな論点である。同時に、農地中間管理事業の成果=実績の裏面にある遊休農地対策の諸問題(発生防止策を含む)にも目を配り、必要に応じて現地調査も実施する。この問題は、今後一層大きくなることが予想され、農水省も具体的な対処策の立案作業を始めているところであり、併せて視野に入れることが必須である。 2.上の作業と併行して、「縮退の時代における農地と農村地域空間の管理のあり方」に関する論稿の執筆作業を進める。その際には、この課題は、一方では「複層化する農地制度」といかに接合・連携しうるのか、また他方では、都市計画サイドにおける「都市空間の新たな管理制度のあり方」をめぐる近時の諸議論とどのように接合・連携しうるのかも、検討したい。フランスの農地並びに都市土地法制に関する本研究者の知識も、比較参照事例として役立てる。 3.最後に、以上の研究成果を踏まえて、「農地制度の複層化」が持つ意味を改めて確認しながら、日本の農地制度と農地政策、農地行政の全体的な構造と機能がどうなって行こうとしているのか、それは日本農業(とくに地域農業)と農村地域の将来にとっていかなる意味を持つのか、他になすべきことはないのかなどを、総括的に考察する作業を行いたい。フランスについて得られた知見も、2017年5月の大統領選挙の結果から生じうる変化をフォローしつつ、この総括的な検討作業中に生かしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の前半だけでなく後半においても、体調を崩した時期があったことから、国内・外の現地調査を予定通りに実施できなかったことが、最大の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的には、旅費と謝金に充当する。
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