研究課題
私的自治をコアとする近代市民法の原理は、財産を有する自権者たる家父長を主体として形成される市民社会における法益状況の複雑性に対応するものであったが、21世紀のポスト・モダン社会は、文字通りの生身の個人がその多様性を持った形で法主体として立ち現れてきており(女性、子供、高齢者、外国人、障害者、消費者、性的指向、交渉能力、個人事業主、各種の思想・信条保持者etc)、その法人格像が多様性を高度化させることに対応する法益状況の複雑性に見合った形の私的自治の進化が促されている。そしてこれが強行法規による一律的な労働者保護と団結権保障・協約自治の変容圧力となってゆく。20世紀における労働法の中核的原理である強行的労働者保護法及び団結権保障・協約自治は、要約的に言えば、合理的な労働条件確保のメカニズムであり、それは19世紀的・古典的な私的自治を外部的に規律し制御するものであったが、上記の変容圧力は、「合理的・客観的」な労働条件保障を任務とする強行的労働者保護及び団結権保障・協約自治のメカニズムに、合意(自己決定)というコミュケーション的原理を高度化・進化させつつ再統合する形で進行しつつある。これが法律行為・合意における重層構造性や関係性、交渉プロセスが主題化される背景であり、それは、資本主義の末期的現象でもある私的自治の利得動機優位の駆動様式から、多様な法主体の生存・生活動機優位の駆動様式へと、その法システムの準拠点を移動させてゆくことと並行している。
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講座・労働法の再生
巻: 6 ページ: 未定
法律時報
巻: 89巻9号 ページ: 未定
Zeitschrift fuer Japanisches Recht
巻: Bd21, Nr.42 ページ: 265-274