本年度は、主に、(1)前年度に遂行した日本における労務供給契約に対する法規制の歴史的研究の一部を「日本における労務供給契約に対する法規制の歴史的研究(1)」として『早稲田法学』第92巻1号に公刊するとともに、(2)同論文を英訳し、"Historical Study on the Regulation of Labor Supply Contracts in Japan"というタイトルでのDiscussion Paperを作成し、イギリスでの研究交流の際に活用した。 (1)の論文では、日本における19世紀前半、すなわち江戸幕藩体制下での労務供給契約に対する法規制の歴史的展開を、本研究の分析枠組である<企業組織と成員構成および雇用形態の3段階モデル>を使って、イギリスとの比較も交えながら、分析した。その結果、「歴史の視点」からは、イギリスの歴史過程から案出した第1段階モデルが、日本の歴史過程にもほぼ妥当することが明らかになった。他方、「比較の視点」からみると、労務供給契約に対する法規制のあり方という点でも、労務契約の履行という点でも、その日本的特質が明らかになった。 そこで、(2)のDiscussion Paperを英文で作成し、それに基づいて、イギリスでの研究協力者であるケンブリッジ大学のSimon Deakin教授と間で、検討・討議を行った。その結果、労務供給契約の履行を担う主体に関して日本とイギリスの間で違いがあり、その淵源には、両国の司法制度あり方の違いが横たわっていることが明になった。
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