交付申請書では、平成 28 年度は、フランス及びシンガポールにおける外国人受入政策の相違とそれぞれの国における外国人の就労意欲・就労形態との関係を中心に調査研究を取りまとめる予定であった。 シンガポールについては、554万人の人口の3割が非永住者であり、その8割が外国人労働者であること、労働内容等に応じた多様な外国人労働者管理制度をとっていることを明らかにした。さらに、シンガポールの多文化主義が憲法秩序そのものに組み込まれていることも明らかにした。すなわち、シンガポール共和国憲法では、マレー語、中国語、タミル語及び英語を公用語として認める多言語主義をとっているほか、マレー人などのマイノリティ民族が国会議員になれるようにする「集団代表選挙区」制度を導入している。この制度では、マイノリティ民族1人を含む一定数の候補者がグループを作って選挙に臨むため、どの政党が当選しても、最低1人のマイノリティ民族が国会議員になれる。また、「マイノリティの権利のための大統領諮問委員会」を設置し、国会が制定する法律及び下位立法にマイノリティ民族に対する「差別的手段」となる条項が含まれているかどうかをチェックする仕組みを設けている。他方、憲法にマイノリティへの特別な配慮規定を設け、特に、先住民たるマレー人のため、結婚・離婚や相続に関しては国内法秩序の多元化を容認するほか、義務教育についても、イスラム教徒については特例を認めている。本研究では、このようなシンガポールの多文化主義の内容だけでなく、多文化主義形成の経緯及び理由を明らかにすることができた。 また、フランスについては、昨年度に引き続き、同国の移民問題の象徴となっているパ・ド・カレの現状を調査した。何か所にも分散していた移民キャンプが1か所に集約され、ショッピングセンターや教会ができるなど、移民の管理体制が強化されていることが確認できた。
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