研究課題/領域番号 |
26380086
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研究機関 | 宮崎産業経営大学 |
研究代表者 |
廣田 久美子 宮崎産業経営大学, 法学部, 准教授 (20567276)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リハビリテーション法 / 社会参加 |
研究実績の概要 |
基礎研究として、包括的なリハビリテーションの概念を日本法とドイツ法について整理した。具体的には、日本法において、職業リハビリテーションについては法的根拠があり、医学的リハビリテーションについても、既に実態として該当するものが存在するが、社会リハビリテーションについては、どの範囲を含めるかについて共通した概念がないため、障害者の社会参加理念を手がかりに、日本法におけるリハビリテーションの法的状況を明らかにした。特に、障害者差別解消法の意義と課題を整理したうえで、障害者総合支援法に基づく電動車いす補装具費をめぐる支給状況と法的課題を検討し、移動の支援の保障と法施策に関する研究を行った(具体的な判例として、福岡地方裁判所平成27年2月9日判決を手がかりとした)。ただし、個別具体的なリハビリテーション給付の実体的な側面については、引き続き、調査を行う必要がある。 ドイツ法におけるリハビリテーションについては、直接的な法的根拠である社会法典第9編のみならず、社会法典全編にわたる検討を要するため、まずは、統合されたシステムとしての「リハビリテーション法」の通則、原理、規範的な構造を明らかにするための基礎的研究を行った。特に、リハビリテーションの原理(例えば、リハビリテーション優先の原則と他給付の調整等)や給付担当主体の調整・連携に関する原則(リハビリテーション給付のコーディネート義務等、各給付主体の負う義務を含む)が、受給権にいかなる影響を与えているか、について検討した。ただし、現在までに明らかになった、「リハビリテーション法」としての基本原理や通則は、個々のリハビリテーション給付やリハビリテーション給付相互の関係を明らかにする際に不可欠な内容であるため、この基礎的研究のみで公開せず、今後、具体的なリハビリテーション給付との関係において反映させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献調査を進めた結果、各リハビリテーション分野の研究を進める前に、社会法典全体におけるリハビリテーション法の通則や原理・原則から包括的リハビリテーション概念を確認する必要が生じたため、計画を変更し、研究の基盤となる概念整理を行った。また、これに伴い、全体像の輪郭を決定づける「社会リハビリテーション」の研究を行う必要が生じたため、2年目に計画していた社会リハビリテーション研究に着手した。 社会リハビリテーションは、ドイツにおいても、各社会保険、社会扶助にわたり、多様な給付内容を含み、本研究中、法的検討が最も困難な分野であることから、個別の給付内容及び具体的な保障システムを全体として解明するのに時間を要している。 また、日本法の現状については、移動の支援を手がかりに研究を進めており、電動車いす補装具費訴訟において、障害者の移動の権利と障害者総合支援法における「日常生活・社会生活」の保障について検討を進めていたが、判決が年度末となったため、判決内容を踏まえて研究の成果として公表するに至らなかった。 社会リハビリテーションの日本における現状調査として、社会生活への適応を図るための発達障害者のリハビリテーションを取り上げ、夏から秋にかけてヒアリングの実施を予定していたが、7月に実父が危篤に陥り、その後、看護と介護を要する状態が続いたため、予定していた県外施設への訪問が困難となった(対象とした上記リハビリテーションは、近隣の発達障害者支援施設では実施されていない)。同様の理由によって、ドイツへの調査についても、実施することができなかった。 よって、研究全体の達成度としては、調査が十分に行えなかったことにより、やや遅れているが、今後の研究の基盤となる内容についてはなっているといえるため、今後の研究によって修正できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように研究計画における実施順については変更したが、全体としての内容に変更はない。 よって、まずは、昨年度の研究の成果として、社会リハビリテーションの日本法における現状と課題及びドイツ法における給付内容と保障システムについて、取りまとめる。 さらに、我が国においても障害のある高齢者の介護保険と障害者総合支援法の適用問題が生じていることを踏まえ、リハビリテーションと介護保障の研究を進め、関連する医学的リハビリテーションについても検討を進める。 ドイツ法については、文献調査を軸としつつも、専門家ヒアリングや関係機関の調査を実施できるよう、調整を進める。昨年度、研究遂行の遅れの要因となっていた実父の介護も、現状としては落ち着いてきているため、今後は計画にそって研究を推進していくことが可能であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画における実施順の変更と、1年目の調査内容の変更(実父の看護・介護により、関係機関等への調査を実施することができなかったため、文献調査を主として行った)により、主に予定していた旅費の支出がなかった。それに伴い、調査に関連して必要となる予定だった文献の一部及び人件費・謝金も不要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
リハビリテーション実施主体及びリハビリテーション給付に関係する機関の調査に要する費用として、旅費及び人件費・謝金を支出する予定である。主に、昨年度分を国内の関係機関の追加的調査に充て、日本法の現状についての研究の推進を図るとともに、今年度は計画に則してドイツ法の調査研究に充てる予定である。
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