研究課題/領域番号 |
26380087
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡上 雅美 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00233304)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 刑法 / 経済犯罪 / 法人処罰 / 賄賂罪 |
研究実績の概要 |
本年度は、ドイツのジーメンス社の経済犯罪についての研究、すなわち、同社の贈収賄事件についての判例研究を中心に行い、他方でドイツ刑法および制裁法に関する研究を行った。 ここでは、ドイツの法人処罰につき、その思想的背景として、法人の意思決定を行う経済人(ホワイトカラー)に対する信頼があり、いわゆる「神の見えざる手」によって悪質な法人は淘汰され、不合理な意思決定は行われにくいものと考えられてきたところ、今回のジーメンス社は、ドイツを代表する大企業であり、その執行部がまさに犯罪的な意思決定を続けており、マフィアさながらの犯罪行為に着手したことは、ドイツ国民にとってショッキングな出来事であった。そして、EU法では、法人に対する「刑事」制裁を科すことを加盟国に義務付けてきたところ、ドイツでは秩序違反法における処罰を行い、法人の刑事責任自体は否定してきたが、今回のジーメンス社の贈収賄事件については、かなり高額な制裁が科されるに至った。 この間の事実関係についてデータを収集し、法人処罰の刑事手続き上の諸問題についても研究を行った。 同時に、ドイツ制裁法に関する研究として、自然人に対するものではあるが、交通犯罪の制裁について、日本と比べてとても刑事制裁としては緩やかであるドイツ法の最新の状況について研究を行い、また、刑罰制度として「終身刑」の合憲性にかかわる問題を取り扱い、ドイツ、アメリカ合衆国およびその他のヨーロッパ諸国における終身刑の現在について研究を行った。とくにアメリカ合衆国の連邦量刑ガイドラインの中での法人処罰研究を行い、「効果的なコンプライアンス」条項の研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ジーメンス事件について、今年、データを収集したところである。今回は、その成果を1本の論文にまとめるはずであったが、その執筆が遅れている。 他方、ドイツ刑法および制裁法に関しての研究は、論文の形にして公刊したところであり、経済刑法に関する進捗のみが遅れている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、ドイツ判例の分析を終了し、そこでの争点を明確化してある。そこで、平成27年度は、主として実体法的な側面での検討を行う。とくにジーメンス判決での対象となった(取引相手や労働組合に対する)腐敗行為や横領・背任をめぐる法人犯罪(賄賂として法人の財産から支出した金銭の使用についての財産犯の成否、必要経費として計上されるのか等の税法上の取り扱い)に関しては、判例・学説上、論点が出揃っており、それについての学説も多岐にわたるので、その研究を行う。刑法各論上の論点も、実は、ジーメンス事件等の経済犯罪で判例が出され、それによって一般的に論じられるようになったものも数多い。判決文や著書・論文等の文献を中心とした情報収集が中心となる。そこで、さらに我が国の学説状況との比較検討を行う。
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