研究課題/領域番号 |
26380087
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡上 雅美 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00233304)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 法人処罰 / 刑事責任 / ドイツ刑法 / 刑罰論 |
研究実績の概要 |
2年目である本年度は、刑事責任および制裁の基礎論についての考察を行った。 刑事責任と刑事制裁(刑罰および改善保安処分)の本質とその関連性について、ドイツの議論を中心に、近時の脳科学者たちからの刑法学批判を題材にして、応報刑論の基本的な正しさを再確認し、自由意思論と責任の本質論の再点検を行った。刑罰論の発展に照らして見てみると、応報刑論は、一時は刑罰の人道化の観点から再社会化ないし教育刑論が力を得たこともあったが、現在では、純粋な予防刑論に基づく刑法は、世界的にも存在しない。しかしながら、昭和30年代の刑法改正論議においては、応報刑論は批判を受けたが、もっぱら、責任主義の人権保障原理としての役割を放棄することができないという理由で応報刑論が維持され、相対的応報刑論という形で応報刑論が存続したという経緯がある。 さて、現代の脳科学者は、「自由意思は幻想である」という自由意思否定論(決定論)の主張に基づき、現代の責任刑法の根源に批判を向ける。今年度の本研究は、これらの脳科学者の主張と刑法(学)批判の骨子を取りまとめ、責任刑法および応報刑論の再構成を試みた。しかしながら、応報刑論の正しさそれ自体は、イングランドおよびドイツの議論状況を参照しつつ、なおその正当性が正確に論証されたことはなく、その根源的な基盤の弱さがあり、「刑罰の本質は応報である」以上のことが語られていないことが確認できた。そして、ドイツの議論において、応報刑論は「責任清算」という形而上学的な個人倫理から正当化されるのではなく、「法の確証」という予防刑論の合目的観点からの社会倫理的な理由によって新たに構成しうることを結論付けた。 次年度は、この基本的な考察を出発点として、法人処罰が刑罰の対象とする適格性があるか否かの問題と、比較法的な法人制裁論を取り扱うことにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
諸外国の企業犯罪としての贈収賄処罰について検討対象とすべき文献が、当初の想定よりもずっと多いことが判明し、それぞれの国の犯罪処罰規定も相当程度複雑化していたため、実務上の論点と規定とのすり合わせがうまく行っていない。また、刑事責任の本質論や基礎論についての依頼原稿や講演が重なり、そちらにかなりの時間を割かれてしまったため。
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今後の研究の推進方策 |
企業犯罪のうち、贈収賄にかかわるドイツの実例の分析を早急に行う。当面は、ジーメンス事件を取り上げる。そのほか、現代的な事案として、FIFAの贈収賄事件の解明も対象としたい。 平成28年度は、ジーメンス事件の事案の解明とその裁判上の論点についてとりまとめる。とくに贈収賄および背任罪については、ドイツ連邦通常裁判所の判例を中心に法人処罰の法律上・実務上の問題点を洗い出してゆくことにする。
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