最終年度の研究遂行にあたり、実体法的側面における成果を確認した。本研究の新発見として、法人の刑事責任の問題は、とりもなおさず、ある犯罪現象を、ある特定の法人に「客観的に帰属」させることを意味するということである。すなわち、どのような要件が備わったときに、その事象を「法人」のせいにできるかが問題になる。この点、従来の通説は、もっぱら法人実在説および現行法としての法人処罰規定を、法人の刑事責任を肯定する根拠にしてきたが、それは如何にも不十分であった。確かに、社会において法人は存在するし、実際に法人は活動している。その意味で法人実在説の事実的前提は否定しえないが、しかしながら、本研究において着目したのは、「法人が実在すること」は、「法人を自然人と同等の権利義務の主体とすること」は、直結しないということであり、法人実在をもって論証できることにはおのずから限界があるということである。例えば、憲法では、法人は基本的人権の享有主体になれるかという論点の元、基本的には、基本的人権は個人に認められるものと解されている。他方、民法上は、法人に行為能力が認められ、例えば、契約の当事者になったり、所有権等の物権を享有しうることは当然のことと考えられている。すなわち、他の法領域においては、法人の責任については法人実在説を持ち出して、それが論拠にされているわけではないにもかかわらず、刑法ではそれ以上の議論に進展していないところが、大きな特徴であり、法人の刑事責任を語る上で大きな障害となっているのである。本研究では、法人の刑事責任については、むしろ憲法上の権利主体の議論が、刑法上の根拠づけに応用可能であるように思われた。すなわち、客観的帰属論の用語でいえば、自律性原理による帰属関係の否定である。 次に、法人の刑事手続上の権利関係についての検討を行った。自己負罪拒否特権に関する考察が中心である。
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