第1に、国外調査として台湾の社会内処遇の実情について調査を実施した。その結果、台湾では条件付執行猶予や緩起訴と呼ばれる条件付起訴猶予の運用が近時盛んになっているものの、その背景には社会の厳罰化要求に立法や司法が呼応した結果、刑事施設の過剰収容状況が深刻化しており、その緩和としてダイバージョンが試みられている点で、再犯防止のための有効性の観点が前面に出ている日本の社会内処遇の動向とは背景を異にしていることが確認された。また、社会内処遇の担い手として宗教的背景を有する民間団体が活躍しており、成果を上げていることが確認された。以上の点をはじめとして、日本との比較のうえで有用な示唆が得られた。 第2に、国内調査として、更生保護施設及び自立更生促進センターの訪問調査を実施した。その結果、民間の更生保護施設の中には、地域と良好な関係を築きつつ、地域社会に果たす説明責任の内容を限定することにより、幅広い対象者を受け入れているところがあることや、国立施設である自立更生促進センターは、決して再犯の危険性が高いという理由で民間の更生保護施設では引き受けられない対象者を引き受けているわけではなく、自立的な生活を送ってもらうことを基本とする民間施設では対応が難しいようなきめ細かな対応を必要とする対象者を引き受けていることが判明した。それぞれに固有の役割を有しているということができる。 第3に、研究の取りまとめとして、学会にて研究成果の公表を実施したほか研究論文を執筆した。近時の福祉的支援などの社会内処遇がともすれば本人の自律性を尊重せずに、パターナリスティックな介入となりがちな現象は、刑事司法の文脈での支援に特有の問題であり、意識的に本人の自律性を尊重する枠組みを構築する必要性が高いことを指摘した。
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