本研究は、架空児童の性的姿態を描く漫画等の児童ポルノとしての規制の可能性がいわゆる児童ポルノ法の2014年改正時にも一時的に検討されるなどの状況に鑑みて、性的搾取・虐待を受けない児童の利益の保護と表現活動の自由保障との調和的規律のための児童ポルノ規制の理論的根拠を探究しようとするものである。その3年の研究期間での第1年度から第2年度にかけては児童ポルノ規制の長き歴史を有するアメリカ連邦法体系を参照し、そこでは被写体児童に係る個人的法益の保護が規制根拠と解する立場が一般的であること、非実在児童に係るポルノながら児童ポルノとして規制されうるものは実在児童の現実の性的姿態の描写との区別が困難な程に高度のリアルなものに限られることを確認した。引き続き第2年度から第3年度に行ったわが国での児童ポルノ規制根拠を巡る判例・学説の理論状況の分析においては、いずれも児童保護との社会風潮といった社会的法益保護に尽きるとの立場は殆どなく、被写体児童の個人的法益保護も少なくとも並列的な根拠とされていることを確認した。その上で、規制対象行為類型や法定刑の点でわいせつ表現規制より相当に厳格な児童ポルノ規制については個人的法益の保護によらない理論的正当化は困難というべきであるから、これら判例・学説の方向性は適切であること、但し、個人的法益の実質をより具体的に解明しなければ、例えば名誉毀損と児童ポルノ行為との間の擬律問題等を生じうること、この点で児童ポルノ規制の根拠を被写体児童の性的自己決定権あるいは性的自由の保護に求める近時の見解は基本的に妥当であること、を検証した。
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