研究課題/領域番号 |
26380092
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70365005)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保安処分 / 再犯防止 |
研究実績の概要 |
わが国における保安処分をめぐる議論状況は、依然脆弱であることが改めて確認された。保安処分の本質に関する議論は、かつての刑法改正論争で展開されたものから基本的に進展していないように思われる。とりわけ、刑罰と保安処分の関係について、わが国の議論は、ヨーロッパ諸国が二元主義に基づき、択一的関係から重畳的関係に変異しようとしている状況等に全く対応できていないといわざるをえない。 刑罰と保安処分の併用を視野に入れた重畳的な二元主義を採用するフランスを比較法の素材として検討した結果、保安監置に関して、以下のような状況が判明した。 保安監置をめぐって、件数は少ないながら実際の運用が始まって、これまでの理論的な批判に加えて、さまざまな実際上の問題点が浮き彫りになってきている。例えば、司法監視上の義務を保安監視によって延長した上で、保安監視上の義務違反を根拠に保安監置を適用するという手法に対しては、これまでから、保安監置の遡及適用を否定した憲法院裁決の趣旨を潜脱するもので、事実上の遡及適用に他ならないとの批判が向けられてきた。しかし、近時では、これに加えて、保安監置が単なる保安監視上の義務違反の制裁と化しているとする指摘もなされるようになった。特に、収容期間の短さや対象者の少なさと累犯予防プログラムの機能不全との関係等、従来とは異なる分析視角が要求されること等と相まって、全体として保安監置制度に否定的な流れが形成されつつあるようにも見える。 また、国家機関が発する意見書において、繰り返し保安監置の問題点が指摘されていること自体、大きな意味をもつといわなければならない。ときには、廃止まで勧告される状況に至っては、政府もこれを無視し続けることはできないであろう。保安監置の廃止を内容とする法案が政府から提出される気運が高まりつつあるとの見方もできよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、各国で喫緊の課題とされている再犯防止に関して、保安処分による対応が理論上、実際上可能かを総合的に検討し、わが国における保安処分導入の是非を明らかにすることであるが、本研究の大前提となる、わが国における理論的脆弱性を既に現段階で浮き彫りにすることができている。その上で、新たな理論的基軸を構成するための比較法的検討にも着手し、刑罰と保安処分の併用を視野に入れた重畳的な二元主義を採用するフランスの議論状況の大半を把握するに至っている。 もっとも、フランスにおける保安処分の運用状況については、概略を捕捉することはできたが、各地方による差異まで含めた詳細な調査は今後の補充を要する点ではある。 しかしながら、この点は、ドイツ等の他国との比較と並行して十分行いうるものであり、本研究の現在までの達成度は、標記のとおり、概ね順調に進展していると考えてよいと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、わが国における保安処分論の脆弱性、及び、刑罰と保安処分の併用を視野に入れた重畳的な二元主義を採用するフランスの議論状況について検討してきた。 今後は、これらの検討結果を踏まえつつ、わが国のいわゆる択一的二元主義の導入をめぐって展開されてきた議論とフランスにおいて現在展開されている重畳的二元主義を比較対照して、刑罰と保安処分の関係についてより精緻な分析を行う。 それと並行して、ドイツ刑事法学との比較も導入していく。わが国では、ドイツ刑法学の影響が非常に強い。そこで、上記検討から得られた示唆が、ドイツ刑法学においてどのような位置を占めているのかを念頭に置きつつ、ドイツの議論状況を把握し、これに検討を加える。これには、ドイツ刑事法学の影響を強く受けたわが国の学説に対して、本研究がどれだけのインパクトをもつかを検証する意味もある。 その上で、本研究の目的である、再犯予防に関して、保安処分による対応が理論上、実際上可能かを総合的に検討し、わが国における保安処分導入の是非を明らかにしていく。そして、最終的には、再犯予防の問題を総合的に捕捉すべく、刑罰論と保安処分論を包含する社会的反作用論の全体像の提示を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
対ユーロの為替変動による。 物品費の大半を占める書籍購入費用につき、為替変動の影響を受けたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、上記のとおり、為替変動を理由とするもので、ごく少額であるため、研究費の執行計画に影響を及ぼすものではないと考えている。
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