本年度は、情況証拠による事実認定が焦点となった刑事事件(2件)について、弁護人への調査(インタビューもしくはメールでの質問)を行った。これらの事件では、間接証拠の信用性もさることながら、間接事実の推認力が争点となっている。またいずれの事件も、いわゆる自白的言動の推認力評価が問題となっており、この種の情況証拠の取り扱いについて検討を行った。 本年度に公表した研究成果は、豊崎七絵「最判平22・4・27の読解とその活用可能性」季刊刑事弁護95号(2018年)93-97頁(単著、査読なし)と豊崎七絵「今市事件控訴審判決における事実認定上の問題点―情況証拠による事実認定論(5)―」法政研究85巻3=4号(2019年)245-283頁(単著、査読なし)である。 研究期間全体を通じ、情況証拠による事実認定のあり方について、理論研究、事例研究を行い、その成果を論文として公表することができた。また一般刑事被告事件における情況証拠による事実認定の問題だけでなく、特定秘密保護法被告事件における外形立証の問題点について、被告人の防御権保障との関係、「近接所持の法理」といった典型的な事実上の推定との比較、媒介事実の立証の要否、「合理的疑いを容れない証明」、そして「疑わしきは被告人の利益に」の観点から理論的に検討し、その研究成果としての論文を公表することもできた。 間接事実のレベル(第一次間接事実とそれ以外の間接事実)の理論的意義を検討し、かつ、具体的事例にも当てはめるという作業を行うことによって、実践的に用いうる推認力評価の「物差し」を示すことができた。
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