研究課題/領域番号 |
26380102
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤原 正則 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70190105)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高齢社会 / 相続の空洞化 / 遺留分 / 生前贈与 / 特定相続 / 対価的相続 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、20世紀の後半から、いわゆる先進国で共通する相続に関する変化をトレースし、法政策的、および、法技術的側面から検討を加えることである。さらに、その際に、わが国のみならず、ドイツ法を参照して検討を進めるという計画である。その準備として、第1に、2010年の相続法改正までのドイツでの議論、および、ドイツでの相続法改正の全体像を検討した。特に、遺留分に関する改正が検討の中心となったが、介護提供を寄与分として容易に承認するという法改正についても主な検討の対象とした。以上の研究は、当然にドイツ法の文献に即して行ったが、相続法改正後4年が経過して、これに関する本格的な検討を行う文献資料がドイツで出始めており、継続的な検討が必要と考えている。 第2が、本研究の中心的な課題である、「相続財産の空洞化」と「相続の前倒し」という現象に関しては、ドイツと日本での贈与のあり方を検討した。そこでの所見は、①日本法では贈与は諾成契約とされ、判例は、事前の書面の方式ではなく、事後的に「書面性」「履行」で贈与の有効性を判断している。②特に、現在進行中の債権法改正での贈与契約をめぐる議論で目立つのが、現実贈与と相続の前倒しの混同であり、シリアスな事例は相続の前倒しであるにもかかわらず、現実贈与に即して議論されていたことである。③以上に関して、現時点での観測は、日本では、公証制度などの法律インフラの不整備ゆえに、贈与の有効性に関する「事後的な判断を不要にする」という方針が貫徹できず、裁判所による一切の事情を含めた事後の判断に依拠していることである。ただし、贈与税率が相続税率よりはるかに高いわが国では、相続の前倒しは限界事例でだけ問題となるから、判例理論には合理性があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の骨格である、ドイツ法、特に、2010年のドイツでの相続法の改正を参照しての、わが国での共通の課題の探求という点からは、まずは、ドイツの相続法改正に関する問題を手がかりに研究を進めることが重要かつ必須の研究の手順である。その意味では、ドイツの相続法改正までの議論、改正法の内容の検討に関しては、一応以上の進展を見たと考えている。ただし、現在は改正後5年目であり、立法当初の立法担当者、関係者の解説は一応でそろっているが、本格的な理論的検討、従来の制度との体系的整合性に関する議論は、そろそろ整理され、出版されているという中間段階である。だから、従来前の資料に関しては、一応の整理と検討はできたが、本格的な検討は、本研究の期間終了までには完成すると予測しているが、現段階で十分とはいえない。さらに、改正法が実務に及ぼす影響などは、徐々に明らかになりつつあるという段階である。したがって、改正法に則した萌芽的な対応といった現象についてはトレースできても、それが実務上どう定着していくかに関しては、予測の域を出ない。だから、概ね順調に伸展しているという評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画どおり、以下の3点に焦点を絞って研究計画を進める。具体的には、①生前処分と死後処分の区別、②包括相続から特定相続の選好の傾向、③相続の有償化である。以上の好個の材料が、ドイツの公証実の予防法学が発展させた、いわゆる「先取りした相続(vorweggenommene Erbfolge)である。本年度は、「先取りした相続」に関する私法上の問題、本体である譲渡契約と用益権の譲渡に限らず、それを側面支援する予防法学的措置にも重点をおいて研究を進めたい。ただし、その際に、伝統的な先取りした相続の法形式である「農家相続」ではなく(これに関しては、法技術的な検討ではないが、法社会学的な先行研究がある)、主に人的会社の事業承継に焦点をおきたいと考える。生前処分と死後処分の最も大きな違いは、相続債権者、および、遺留分権利者の利益である。つまり、生前行為なら、相続債権者は債権の回収には詐害行為取消権に指示されるが、死後行為なら相続財産の清算手続きによって当然に優先弁済を受けることができる。さらに、遺留分権利者は、生前行為なら遺留分減殺(補充)請求の時効期間によって権利行使が阻まれる可能性がある。この2点を考慮して、先取りした相続、および、生前処分と死後処分の意味について検討したい。 加えて、以上のような相続慣行のもたらす副次的な問題、例えば、窮乏による贈与の取消などの社会保障制度との関係も検討対象としたい。その主な目的は、ドイツ法と日本法の相続慣行の違いの背景を明らかにするためである。
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