研究課題/領域番号 |
26380103
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根本 尚徳 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (30386528)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 差止請求権 / ドイツ / 間接侵害 / 著作権 / 特許権 / 不正競争 |
研究実績の概要 |
本研究に与えられた研究期間の2年目にあたる本年度においては,前年度に引き続き,本研究の基盤となるべき文献資料の一層の充実とその解析に力を注いだ。すなわち,本研究の課題に関連する日本・ドイツそれぞれの学術論文と判例とを幅広く調査・収集し,その整理と分析とに努めた。 また,本年度の前半(2015年4月~同年9月)には,前年度における考察によって得られた成果をさらに発展させるべく,差止請求権の基礎理論に関する検討に集中的に取り組んだ。すなわち,前年度の分析によって明らかになったとおり,ドイツの学説では,①複数の関与者が知的財産権を侵害する場合と②複数の関与者によって競争秩序違反行為が行われる場合とを1つの法律構成の下で統一的・整合的に処理することが模索されており,このような統一的処理を可能にする一般的な差止請求権理論の構築が求められていること(そして,そのような方向性こそ妥当なものであると考えられること)から,そのような一般理論としていわゆる権利簒奪理論が有用性を発揮しうるか否か,を検討した。さらに,その際には,複数のドイツ人研究者から上記の点について様々な助言を得ると共に,私見をも提示して,これについて議論を交わした(それによってもたらされた具体的な(中間的)研究成果として,後掲する雑誌論文を公表し,同じく後掲の講演を行った)。 他方,本年度の後半(2015年10月~2016年3月)には,研究拠点をドイツから日本へと移した上で,これまで進めてきたドイツ法に関する検討の成果(当該検討によって獲得された示唆)を基にして,同様の問題に関する日本の判例・学説の分析に研究の重点を置き始めた。同時に,この作業と並行して,ドイツの判例・学説による議論状況を整理し,日本に紹介する論文の執筆の準備を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究活動の成果として,本研究の課題に関するドイツの判例・学説の議論状況については,従来からの経緯やその構造(判例・学説間における対立点の核心,当該対立が生ずる要因など)を把握することができた。これによって,日本における同様の問題を検討する際の分析の視角を獲得しえた。さらに,この点に関する私見も,(暫定的ではありつつも)一定のまとまりを見せ始めた。加えて,本年度の後半には,これらの成果を1つの学術論文にまとめる作業に着手するとともに,ドイツ法からの示唆を基にして,日本法に関する分析をも開始した。 また,特に本年度の前半においては,ドイツの研究機関に研究拠点を置いていたことから,最新のドイツ語資料を即時に入手し,それらを本研究に迅速に反映することができた。特に,日本では容易に参照しえない最新の外国語文献に複数,接する幸運に恵まれた。 さらに,1年半にわたるドイツでの研究活動の成果として,複数のドイツ人研究者から,本研究の課題の解決に直接に資する貴重な示唆や助言を得ただけでなく,本研究のさらなる発展を期す上で不可欠となる研究支援の約束を取り付けることができた。上記学術論文を執筆する過程において疑義が生じたときには,これらの研究者に直ちに質問などを行うことが可能である。また,彼の地の若手研究者(博士論文を執筆している,研究機関の助手)と親しくなり,今後,本研究の課題に関連する新しい判例や論文などがドイツで公表された場合には,それらをも速やかに本研究に反映させるべく,彼女ら・彼らの協力の下に,インターネットなどを通じてそれら最新の文献資料を直ちに入手しうる手はずが整った。 このように,本年度に予定していた作業の大半を終了し,次年度に予定している最終的な成果の取りまとめに必要な支援体制も十分に構築されたことから,本研究は「おおむね順調に進展している」ものと言うことができる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究に与えられた研究期間の最終年度にあたる次年度においては,まずその前半(2016年4月~同年9月)で,本年度の後半に開始した第1の作業,すなわち,複数の関与者によって知的財産権侵害や競争秩序違反行為が行われている場合における被侵害者の差止請求権の要件・効果をめぐるドイツの判例・学説の議論を整理し,判例と学説とで見解が異なる点やその理由などについて分析した学術論文の執筆を加速させる。合わせて,知的財産権侵害に対する差止請求と競争秩序違反行為に対する差止請求とを統一的・整合的に処理しうる差止請求権の一般理論について,私見をまとめるべく,(同じく本年度にすでに開始した)考察を深め,これについても文章にまとめる作業を開始する。 次に,次年度の後半(2016年10月~2017年3月)には,研究期間の終了時に学術論文を脱稿すべく,具体的な論文執筆作業に全力を注ぐ。特に,日本の判例・学説による議論状況の分析と総括に力を入れる。 また,その際には,当該論文執筆作業の効率的な進捗を図るために,また,ありうべき誤解や分析不足をできる限り速やかに除外するための方策として,本研究の成果(ドイツと日本とそれぞれにおける議論状況の概要・特徴,複数の関与者に対する差止請求権の要件・効果に関する私見)について,本研究の課題に関心を寄せる日本国内の研究者との間で複数回,意見交換の機会を持つ。 加えて,次年度の後半に(具体的には,学術論文を完成させる前に),ドイツを短期間,訪問し,本研究の最終的な成果についてドイツ人研究者と意見交換を行う。 なお,本研究の課題に関する議論はドイツでも日本でも今なお「動いている」ため,両国において新しい判例や学術論文・図書などがなお複数,現れることが予想される。それゆえ,次年度においても,1年間を通じて,ドイツ語・日本語文献の調査・収集を随時,実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の研究代表者は,本年度の前半(2015年4月~同年9月)には,ドイツ連邦共和国・ミュンスター大学に客員研究員として滞在することを許され,同大学が加入し,その教員や学生に提供しているオンライン・データベースの利用をも認められた。そのため,特に,ドイツで発行される主要雑誌の最新号などに本研究のテーマに関連する学術論文や判例,判例評論等が掲載された場合には,それらをインターネット上にて無料で閲覧・入手することができた。その結果,予算に計上していた文献入手費用の支出を当初の見込みよりも大幅に抑制しえた。 また,当初,本年度の後期に予定していたドイツ人研究者との意見交換も,本年度の前期に,すなわち上記研究代表者がドイツに実際に滞在している間に実施することが叶った。その結果,日本とドイツとの間を行き来するための旅費をすべて節約することができた。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰り越された研究費は,第1に,日本国内の旅費として使用する。本研究者の研究代表者は,札幌にその研究拠点を構えているところ,本年度の後半には,東京や京都で開催される複数の研究会に赴いて,それぞれの研究会で本研究の成果について報告を行い,本研究の課題に関心を寄せる日本人研究者と意見交換をする機会を持つ予定である。これには多額の旅費を必要とするため,本年度,支出を節約することのできた研究費の一部は,この旅費に充てたい。 第2に,次年度にドイツで公表される,本研究の課題に関連する学術論文や判例の入手費用として用いる。特に,日本においては,ドイツにて無料で利用することができたオンライン・データベースを使用することはもはや叶わず,自らの費用で文献を入手しなければならない。円安の影響で洋書の値段が高騰していることに鑑みて,本年度,出費を免れた研究費の一部は,特にドイツ語文献の入手に使うこととする。
|