平成28年度は、日本の倒産法制と金融機関の関係について、国内外の実務家、研究者に対してその研究成果を報告する作業を主として行った。 例えば、タイの法務省で倒産法制の整備を行う役人と日本の研究者による共同研究会を開催し、日本の倒産法制の特徴、特に中小企業の再生に関する法制について、報告と説明をした上で、意見交換を行った。その中で、特に中小企業においては、金融機関の融資が企業の再生にとって大きな影響を与えること、それらに対する優先権の付与や担保法制の整備が不可欠であるとの示唆を与えることができた。それと並行して、日本の倒産法制は様々な面において債務者優位であるが、債権者優位のものか、債務者優位のものかにより、債権者・債務者の行動に影響があると知見をえた。また、倒産に関連する裁判手続における金融機関の情報入手のあり方についても、考察、発表を行った。 さらに、東京、第一、第二、大阪弁護士会の共同開催するシンポジウムで、研究成果の一部である仲裁合意の倒産法上の拘束力について報告をするとともに、事業譲渡や免責決定についての外国裁判所の許可の効力などについて報告をした。実務家との複数回にわたる意見交換の中で、これらの問題が倒産企業に対する融資者にとって重要な問題であることの知見を得ることができた。 研究期間全体を通じて、倒産企業に対する金融機関に対する融資を助長しつつも、それに対する裁判所や一般債権者による監督のバランスをとることが不可欠であること、事前の契約内容を優先しつつも、倒産法一般の目的からの制約が必要であるという研究成果を得ることができた。特に裁判所による監督の必要性を明らかにしたことにより、実務や立法者に示唆を得た点で重要な意義を有する。また、国内の問題にとどまらず、国際的な倒産における債権者の行動という今後の研究課題を発見することができた。
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