研究課題/領域番号 |
26380109
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
河崎 祐子 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (80328989)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 民事法学 / ADR / 事業再生 / 裁判所 / 訴訟上の和解 / 執行力 / 裁判手続の強制性 |
研究実績の概要 |
本年度は、債権者平等原則の意義・根拠の探求を中心に調査・分析を進めた。その際、まずは当初の予定通り商取引債権の処遇をめぐる議論に目を向けたが、結局、過去十数年来学会で注目されてきたにも関わらず理論的成果がないに等しいこのテーマには理論分析の手がかりは見出しえないとの結論に至った。そこでこれに代えて、より有意義かつ発展性のある理論分析の視角として、民事裁判手続における法的強制力に着目した。というのも、債権者平等原則は法的倒産処理手続の支柱をなす法的強制力の一発現として捉えられ、しかも、より広く民事裁判手続一般を対象とすることで基礎理論としての広がりや発展性は格段に増大すると考えられるからである。加えて、この方向性をとったことで、裁判外倒産手続に関する前年度の研究成果をより直接的に発展させることも可能となった。 以上の成果は、「執行力概念の再検討」と題する学術論文に取りまとめ、厳格な査読審査を経たうえで、学内紀要に公表した。ここでは、日本における3つの主要な民事訴訴訟理論の内容とその展開を辿ることを通して、執行力の理論的根拠を探求するとともに、ADRへの執行力付与の問題を踏まえつつ、私法の領域における現代国家の関与のあり方を考察した。 また、判例評釈を一本執筆・公表した。対象判例(最高裁第三小法廷平成27年9月15日判決)は、過払金が発生している継続的な金銭消費貸借取引の当事者間で成立した特定調停制度の効力の有効性について論じたものであるが、ここには、特定調停の「確定判決と同一の効力」、そして、利害関係人間の集団的解決を必要とする倒産処理制度の一つとして調停という一対一の関係を調整するための枠組みを用いることの意義という理論的課題が見いだされ、このそれぞれについて、前年度執筆した論説「訴訟上の和解の法的性質」の成果と、執行力概念に関する本年度の上記論説の成果とを活かした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では各年度に重点調査項目を設定しているが、そのそれぞれについて、現在に至るまで概ね予定通りに調査・研究を進めており、その成果は各年度に一以上の学術論文に取りまとめて公表している。このことから、本研究課題は当初の予想を大幅に上回る形で順調に進展し、成果をあげているといってよい。 もっとも、実際の研究の展開に応じて、当初の研究計画は若干修正の必要に迫られた。まず、平成27年度と28年度の取り組みは、効率性の観点から、本来の順番とは逆に進行させた。この結果、研究計画全体の構成や進捗に影響が及ぶまででは無かったものの、平成27年度には完了する予定であった債権者平等原則の意義の解明が、民事手続法における強制性というより一般的な到達点にとどまっており、この点はともすれば計画の遅滞と捉えられるかもしれない。しかし、債権者平等原則については、前年度までの調査・分析を経て、本研究課題中最も困難かつ大きな考察テーマであると認識しており、それゆえ取り組み順序の入れ替えや、より一般的な考察テーマからの分析などの工夫を凝らしてきたのである。しかも、このように取り組み方法を調整したことで、それまでの研究成果をより直接的に生かすことが可能となったことは前述の通りである。むしろ、債権者平等原則については、法的倒産手続における強制性の問題として、これまでの研究成果を踏まえつつ最終年度に行う理論的考察の取りまとめ、理論体系化の作業のなかで、そうした作業の一環として探求することが、最も合理的かつ効果的だと考えられる。 以上の理由により、本研究課題は概ね当初の計画通りに進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は本研究課題の最終年度であり、当初の研究計画どおり、過去3年度にわたる研究成果を、倒産処理におけるガバナンスの観点から取りまとめ、その理論体系化を図る。その際には、平成27年度の重点調査項目であった債権者平等原則について、裁判手続の強制性に関する一般的な研究成果を各論的に展開するとともに、公法上の比例原則をめぐる国内外の議論状況などをも視野に入れて、研究代表者の一貫した研究テーマである再建企業ガバナンス論の第二段階を総括するとともに、次なる発展段階への足がかりを得ることを目指す。 この研究成果は、具体的な学術論文の形に取りまとめ、学内紀要よりもさらに一般的な媒体において公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の洋書の刊行が遅延し、年度内の購入が不可能となったため(会計上の混乱を避けるため、いったん発注を取り消して、次年度に改めて購入することとした)、
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次年度使用額の使用計画 |
刊行の遅れていた洋書が今年度中には刊行されることがほぼ確実であるため、平成29年度請求額と合わせてその購入のために使用する。
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