本研究は,金融商品取引法上の継続開示規制を取り上げ,特に継続開示義務者の範囲を中心に,その政策的合理性を明らかにすることを目的とするものである。最終年度である平成28年度は,いくつかの研究成果を公表することができた。まず,久保田は,証券の公募発行を行ったために情報開示(発行開示)が求められた証券発行者に対して継続開示を義務づける金融商品取引法24条1項3号は米国連邦証券取引所法上の規制をモデルにしているところ,かかる米国連邦証券取引所法上の規制の立法過程やそれをめぐる議論を調査したうえで,日米両国では,前提となる問題状況を大きく異にすること,それゆえ,わが国では,米国とは異なり,金融商品取引法24条1項3号のような規制手法には必ずしも十分な合理性が備わっていない可能性が小さくないことを明らかにした。また,尾崎は,継続開示書類の中核である有価証券報告書制度を取り上げ,取締役会付議の要否や提出時期について現状を日本監査役協会のアンケート調査などをもとに批判的に検討した。さらに,尾崎は,株主総会における情報開示にまで研究対象を拡げて,株主総会における株主との建設的対話の前提となる,株主への情報提供の在り方について検討を加えた。なお,本研究では,平成27年度までに,久保田が,金融商品取引法上の特定組織再編成発行手続・特定組織再編制交付手続に係る情報開示制度を取り上げ,同制度が組織再編成に際して発行開示を要求したうえで,金融商品取引法24条1項3号を媒介にして継続開示を要求するという規制手法を採用することの政策的合理性を検証するための作業を行い,その成果の一部を論文として公表している。
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