委任や信託については、財産管理人(受任者、受託者)が本人(委任者、委託者・受益者)に対して情報提供義務を負う旨が定められている者ノ(民法645条、信託法36条から39条)、本人の相続人が財産管理人に対して情報開示請求をすることができるのか否かは、必ずしも明らかではない。確かに、近時、最高裁は、契約上の地位の相続による承継という法的校正によって、預金者の共同相続人の一人による金融機関に対する預金の取引経過開示請求を認める判断を示したところである(最判平成21年1月22日)。しかしながら、この最判の規律を前提としてもなお、相続人ではない受贈者・受遺者がいる場合や、相続人であっても被相続人の地位を承継しない場合(遺言信託について、信託法147条参照)など、規律内容が明らかでない場面が残されている。 信託委託者の相続人は、情報開示請求権等を相続によって承継しない場合があり、そのような場合に、必要な情報を入手することを可能にするためには、固有の情報開示請求権等が認められる必要があるが、わが国においては、それが広く認められているという状況にはない。このことが、信託に関する遺留分減殺請求の規律について考察する際に、受益者説ではなく受託者説を採用することを積極的に基礎づける一要素となり得る。
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