研究課題/領域番号 |
26380120
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松原 正至 広島大学, 社会(科)学研究科, 教授 (10252892)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | LP / LLC / Partnership / 組合 / 合同会社 / 信認義務 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、わが国と米国における非株式会社型ストラクチャーについての研究を文献を中心にして前年度より継続・深化させたほか、特に英国に調査・資料収集に行くことにより、現地調査を行ったことが成果である。具体的には以下の通りである ①わが国では株式会社以外のスキームにて事業を行う場合に、投資ファンド等の一定事業について合同会社や匿名組合の利用がみられるものの、米国のような税制の特典がないことから株式会社ほど利用は進んでいないことが確認された。 ②米国については、特にデラウェア州においてLPとLLCについて基本契約にて信認義務の排除がなされた場合に、株式会社の株主と比較してその保護が十分であるか否かか論争になっており、この点についてデラウェア州最高裁判所判例であるGerber v. Enterprise Holdings, LLC, 67 A.3d 400 (Del. 2013)について判例研究をするとともに、信認義務の排除に関する分析の視点につき論考をまとめた。これらについては出版社との関係から28年度に公表されることになっている。 ③英国においてはLSE(London School of Economics)とオックスフォード大学にて、とりわけpartnershipとLPについての資料を収集したほか、登記所においていわゆるわが国の閉鎖会社に相当するprivate companyの活動実態を調査したり、BIS(Department for Business, Innovation and Skills)等の政府機関の公式文書や統計を調査・収集した。これらは現在精力的に考察・まとめを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画は、主としてわが国における非株式会社型ストラクチャーの事業実態の調査と文献ベースにおけるわが国と米国の制度の把握とともに英国における実態調査と資料収集であった。 ①わが国については2006年の会社法改正後に合同会社制度が導入されたものの、株式会社に変わるストラクチャーとしての優位性は特に税制の点から見られず、小規模事業や投資ファンドとしての利用にとどまっていることが理解された。 ②米国については特にデラウェア州のLP・LLCについて研究を進めた。持分を公開しているMLPや公開LLCについては大規模公開株式会社とストラクチャーにおいて大きな相違がないにも関わらず、契約自由の原則を理由に信認義務を放棄することができるとされ、持分権者の保護が株式会社の株主に比して劣位に置かれることの必然性に疑問がわき、とりわけこの点について、文献や判例を調査・検討した。制度や判例の流れを論考としてまとめたほか、デラウェア州最高裁判所のGerber v. Enterprise Holdings, LLC, 67 A.3d 400 (Del. 2013)について詳細に検討し、判例評釈を発表するとともに、公表原稿を作成した。いずれも出版社との関係から平成28年度に公表される予定である。 ③英国については平成27年度に現地における調査・資料収集を行った。これによりわが国では収集できない資料や論考を入手し、現在、検討を行っているところであるが、英国はわが国の制度に類似すると言ってよく、米国のようにLPやLLCが株式会社に代替してはいない。その代わり、小規模事業についてはprivate companyがその役割を果たしている。また、partnershipについては1890年法と1907年法が、LPについては1907年法が基本法のままであり、それぞれが株式会社的なスキームではなく、伝統に根ざした組合であることが理解された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度においても、平成26年度からの方法と同様、基本的にはわが国と米国・英国のそれぞれについて文献ベースにて研究を進める。また特に、平成27年度の英国調査で得られた資料や文献を特に読み進め、LPやLLCのマネージャーの基本的義務である信認義務について英国法の考え方を解明し、論考にまとめる予定である。そこでは英国の考え方のみならず、英国の歴史・制度がベースになってるにもかかわらず、特に米国の制度が乖離を深めている点についても研究を深める予定にしている。 さらに平成28年度においては米国における調査・資料収集を1週間程度行うことを予定している。ここではこれまで文献ベースに進めてきた研究からの知見をもとに、実態を調査することとしたい。具体的には、デラウェア州LLC法の起草者等に対するインタビューのほか、SEC等の政府機関やColumbia University等において資料収集を行う予定にしている。これにより、米国におけるLP・LLCがなぜ現在のように隆盛を極めるに至ったのか、また、そこには株式会社制度ではカバーできないメリットが存在するのかという点について特に研究を深める計画である。この研究成果により、わが国の非株式会社型ストラクチャーを活用するにはどのような制度設計が望ましいかという方向性を見いだし、最終年度の研究につなげる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費と旅費の見積金額をそれぞれ50万円にしていたところ、外国図書が為替相場の上昇により当初見積りよりも金額が大きくなったため、旅費を減額しそれに当てた結果、差額2,757円が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に充当し、図書費として使用する計画である。
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