研究課題/領域番号 |
26380127
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
水津 太郎 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (00433730)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 物権と債権の区別 / 債権者平等原則 |
研究実績の概要 |
本年度は、代償的取戻権・価値追跡論・両者に関連する基礎理論について基礎的な調査を実施するほか、研究課題に関連する問題である物上代位・物概念・将来財産譲渡担保・財産権保障について研究業績を公刊するとともに、研究課題のひとつである代償的別除権についてドイツにおける議論を分析し、次のような成果を得た。 第1に、可否については、新倒産法の立法理由においてすでに示唆されていたように、現在の判例・通説は代償的別除権の法形象を認めている。その根拠については、代償的取戻権に関するInsO48条を類推適用するのが一般である。理論的基礎づけとして重要とみられるのは、(1)取戻権と別除権はいずれも一般債権者が目的財産を引き当てにできないという点で同一の性格を有していることと、(2)取戻権と別除権の境界はかならずしも明確でないことである。第2に、代償的別除権の要件・効果については、取戻権ではなく別除権が問題となる点を除けば、代償的取戻権のそれと基本的に同様である。もっとも、とくに適用範囲については、異論を提起するものがある。それによると、代償的別除権は、倒産手続開始前に債務者が別除権の目的物を譲渡した場合には適用されない。InsO48条が倒産前の譲渡のケースに代償的取戻権を認めているのは体系違反と解される。なぜなら、このケースで取戻しを請求できたはずの者は、一般の不法行為による損害賠償請求権や不当利得返還請求権しか有していないため、他の債権者よりも優遇するにあたらないとみるべきだからである。したがって、少なくとも代償的別除権については適用範囲が制限されてしかるべきであるとする。だが、この見解は一般には支持されていない。代償的別除権は代償的取戻権と同一の原理を基礎としており、そのためInsO48条の類推適用により認められる以上、適用範囲を区別するのは首尾一貫しないからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、代償的別除権に関する考察を論文のかたちで公刊するとしていた。研究実績の概要で記したように、このテーマに関する研究は順調に進展し、関連する研究業績の公刊が決定している。また、計画と異なり、ゲストスピーカーを招聘しなかったのは、本研究課題の実施者が分担研究者として属している研究課題との関係で、招聘を予定していた人物が本研究実施者の所属大学に招聘されたため、目的が達成されたからであり、本研究課題の進捗状況に影響を与えるものではない。その他の点も、おおむね研究実施計画どおりに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はおおむね順調に進展しているけれども、債権者平等原則については、この問題が当初想定していたよりも難問であったため、次年度も集中的に研究を継続しなければならない。もっとも、債権者平等原則の問題は、次年度で研究を予定しているテーマとも密接な関連性を有するため、作業そのものの内容を変更するというよりは、その重点を移行することで対処することができる。 研究の推進方策としては、研究計画調書で挙げた諸問題について、よりいっそう関連性を意識して、同時に処理できるものは一体として研究を遂行することが考えられる。そうすることによって、本研究の目的をより確実かつ効果的に実現することが可能になると思われる。
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