重複設定された譲渡担保の私的実行権限に関して、特に米国の不動産担保法との比較検討を行った。米国の不動産担保法では、伝統的に、判例法におけるモーゲージを中心とした理論化が行われてきた。 このモーゲージ法では、担保権の実行は、フォークロージャーと呼ばれる手続によって行われており、フォークロージャー訴訟によるものと、実行権限に関するあらかじめの特約によるものに分かれているが、いずれも担保権の実行に関する制定法による。もっとも、制定法の規定は、差押えや公示、競売ないし公売方法に関する一定の規定(強行法規的性質をもつ)がある一方、公売を行う主体や配当方法などに関しては、当事者の意思による選択を認める内容となっている。担保競売と私的実行を対置させる制度となっていないが、少なくとも、重複設定された担保権の優先弁済の行使方法については、わが国の民事執行法所定の実行方法に比べて任意の処遇を許す度合が高い分、私的実行に近い要素をもつ。このような制度のもとで、モーゲージ法は、後順位担保権の実行方法について、引受主義を基本としつつ、エクイティの観点から、先順位モーゲージを消滅させる判例類型を展開させてきた。このような判断の基礎として、後順位モーゲージ権者による設定者の受戻権の代位行使という理論がみられる。 近年では、このモーゲージ法における優先弁済権の分配の任意性の機能を代替させる約定による取引がみられる。メザニン・ファイナンスと呼ばれる手法であり、特に事業性ある大型不動産物件について、その所有と運営を目的とするSPCをつくり、目的物の担保については、先順位担保権者が単独の包括担保をとり、後順位担保権者はSPCの支配権を担保にとるという取引手法である。 中小企業の流動資産の包括担保(前年度)との対比から明らかになったのは、収益物件の後順位担保に求められる機能の区別の重要性である。
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