最終年度となる平成28年度には、当該研究テーマ「利益概念から剰余金概念への移行に対する会社法および税法の対応と展開」を明らかにする4つの視点からの研究、すなわち「歴史的研究」、「会計学的研究」、「ドイツ比較法的研究」および「現行会社法・税法上の研究」を有機的に結合させ総括を行い、具体的には、現在において資本・剰余金制度に会社債権者保護の機能があるのか、機能があるとしてもその機能の割に資本・剰余金制度存在のコストが大きいのではないか、会社債権者は自らを守るために本当に資本制度を欲しているのか、また、この制度に問題があるとして代替する制度があるのか等について考察した。 その結果として、剰余金法制の役割については、株式会社の規模および特徴と密接に関連するという結論に達した。たとえば、上場株式会社であれば、金融商品取引法適用対象会社とされ広く会計情報が開示されることによって、モニタリングされる。これに対して、小規模閉鎖的な株式会社では、金融商品取引法の対象外であり、計算書類の正確さは担保されておらず、経営者の恣意による運営が可能となる。また、このような会社では経営者イコール株主という状況も多く存在する。これらの異なる会社において剰余金法制の有する意味も異なる。すなわち、大規模上場会社においては資本制度の持つ役割は小さいが、小規模閉鎖会社ではいまだに剰余金法制は債権者保護としての機能を有しているということがいえる。 さらに、税法学および会計学との関係については、異なる趣旨をもつとはいえ、双方ともに多分に会社法の影響を受けることがわかった。上述の会社の規模との関係においては、会計学については逆点現象とはなるが会社法に先んじてすでに対応されており、税法上はやはり会社法に追随するという関係となろう。
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