あらゆる面でネットワーク化が進み、情報がデジタル化すると、社会に生起する紛争を扱う司法手続も、ネットワーク化とデジタル化に対応せざるを得ない。これを実質面のICT化という。他方、司法手続それ自体も、社会のあらゆる分野と同様に、事件処理のプロセスにおけるコンピュータ利用が進む。これを手続面のICT化という。本研究では、この両側面を、民事手続を中心に観察した。 実質面のICT化は、司法手続における事実と証拠のデジタル化・ネットワーク化をもたらす。その大きな領域は、いわゆる電子証拠に対する対応であり、電磁的記録媒体を証拠方法としつつ反訳書面を補充的に提出する方法と、反訳書面を証拠方法としつつデジタル情報の複製を補充的に提出する方法とがあり得るが、その真正な成立の立証方法、原本概念、提出命令に係る場合の提出の方法などには問題を残している。 また、ネットワーク社会の紛争においては当事者の身元が判然としない場合があり、いわゆるプロバイダ責任制限法4条の射程が問われる。 手続面のICT化は、諸外国の実務で著しい進化を見せているにもかかわらず、我が国ではほとんど進展していない。裁判へのアクセスという観点からも、e-filingの利用は進められるべきであるし、法廷におけるIT機器の活用は審理の充実のために有用ということができる。 本研究では、さらに諸外国で必ずしも進められていない民事執行や倒産処理手続のIT化についても、手続の効率化と当事者の権利保護のための有用性を検討した。 以上を踏まえ、ICTの活用が単に司法制度の効率化や過重負担の解消というにとどまらず、利用しやすく、分かりやすい司法制度の実現という理念に関わっているのであるから、日本においてもICTの活用による司法手続の高度化を進める必要があると結論づけた。
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