研究課題/領域番号 |
26380151
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
三枝 健治 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80287929)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 信託 / 情報 / 忠実義務 / 利得の吐き出し |
研究実績の概要 |
本年度は、情報の「財産」性について検討を加えた。これは信託における情報の不正利用に対処する方法の一つとして、信託法16条の物上代位による利得の吐き出しが考えられるところ、その前提として情報が同条に言う「財産」に該当するかが問題になるからである。情報の財産性について、例えば知的財産権を所有権のアナロジーで捉えることの是非等、既に別な形で論じられてはいるが、本研究課題にとって、業務執行過程における情報の不正利用という点で共通性の高い営業秘密の「財産」性の議論が特に参照に値する。そこで、営業秘密の「財産」性に関して議論が展開するアメリカ法を詳細に調査したところ、営業秘密の保護のために依拠すべきは契約法であるとの契約説や、むしろ不法行為法であるとの不法行為説等が入れ乱れる中で、大勢は契約説から不法行為説に移行しつつあること、しかし、そのような状況にあって、不法行為説ではなお不十分であるとして、情報を「財産」と扱うべきである旨主張する物権説も根強く解かれていることが確認された。損害賠償という効果に関して言えば、情報の財産性を議論する実益は乏しく、むしろ財産か否かの二者択一を迫り、諸利益の総合判断を困難にしかねない物権法説には難点があるが、しかし、例えば、収用の規定の適用可能性等、特定の効果との関係で情報の「財産」性を認めることが不可欠な場面のあることが物権説の説かれる理由であると判明した。本研究が情報の「財産」性を論じるのも利得の吐き出しという効果を意図してのことであり、後は、そのような効果のために情報の「財産」性を論じる必要性と相当性についての検討が次の課題である。その点の解明は来年度に委ねることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、当初の予定通り、アメリカ法を手がかりに、関連資料の詳細な分析を通じて、営業秘密に関する情報の財産性を巡る議論を詳細に整理することができた。アメリカへの学会出張も、その最新の理論動向を知るうえで非常に有用で、自説展開のアイディアの基礎を固めつつある。 しかし、以上の順調な進展が認められる一方、なお十分でない点も二つある。一つは、情報の「財産」性が本研究の課題である信託という個別の場面でどのような特徴を持つべきものかが十分に解明できていいない点である。もう一つは、アメリカへの出張は実現できたが、当初予定したヨーロッパへの出張ができなかった点である。いずれの点も、資料収集自体はする等して一定の対応をしており、今時点で本研究は総じてなお順調との評価が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果の一部をいわば中間報告という形で下掲の論文にまとめて公表したので、それに続けて、さらに本格的な研究成果の公表に向けて、論文執筆等の準備を進めることにしたい。
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