本年度は、情報の財産性を検討するにあたり、まず、その手掛かりとした営業秘密を巡る議論の調査を昨年度に続いて行い、分析を加えた。それによると、少なくともアメリカでは、営業秘密の「財産」性を肯定した合衆国最高裁判決はあるが、学説の多くは、無形で広く共有される情報への過剰な規制を懸念し、これに批判的であった。しかし、中には、同判決が憲法上の財産収用の禁止規定を情報にも適用させようとしたように、特定の法的効果が情報にも当てはめまることの説明概念として情報の財産性を承認することは否定すべきでないとする見解もあった。これに従うと、利得の吐き出しを認める目的との関係で、その必要性と相当性があれば、情報を有体物と同じ「財産」であると構成することも許されることになる。このように情報の財産性が利得の吐き出しを認めるレトリックであるとすれば、そのレトリックで実現しようとする利得の吐き出しがどのような場合に認められるべきかの解明は重要で、本研究もこれに取り組んだが、なお十分でなく、今後の課題とせざるを無かった。というのも、利得の吐き出しは、目下、単なる契約違反でも求められて然るべきであるとの適用拡大の声が強まる一方、従来より伝統的に認められてきた知的財産や信認義務の伝統的な場面でも全ての利得の吐き出しが求められるべきではないとの適用縮小の声も上がり、揺れ動く状況にあり、より慎重な考察が必要となっているからである。ただ、いずれにせよ、反対説が懸念するような過剰規制を回避するためにも、同じ目的を有する不正競争防止法との関係も意識しつつ、レトリックとしての「財産」性を承認して利得の吐き出しを求めるべき(i)情報の種類や(ii)対象の行為、さらに(iii)当事者の関係性を限定する必要があるとの立場が適当と考えるに至った。
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